アジア大会「金メダル」なのに“1秒も放映されなかった”? 「水球男子」が2連覇したことを知る人はどれほどいるか
カメラはたった一台
当然、選手からも反発があった。が、活路はそこにしかない、大本監督は強い信念で選手たちをリードした。そして、その戦術は着実に結果をもたらした。実際に強豪相手に接戦を展開し、時には勝利するようになった。その戦法は国際的にも衝撃を与え、世界的には身長の低いイタリア代表が大本戦法を採り入れて世界選手権に優勝するなど、ポセイドンジャパンは世界の水球の定石をも変える存在となった。
私はその現象に関心を抱き、東京2020に向けて繰り返し取材を重ねた。残念ながら、東京2020は無観客となり、大本監督が期待した「地の利」を生かすことができず予選リーグで敗退した。それが今回「1秒も取り上げてもらえなかった」ことと無関係ではないだろう。もし東京2020で決勝トーナメントに進出できていたら、そしてメダルに手が届いていたら、2019年ラグビーW杯で国民的熱狂を巻き起こしたラグビー日本代表の再現も夢ではなかった。その悔恨が大本にはある。
水球が日本ではあまり注目されない競技なのは認めざるを得ない。が、前回金メダルを獲り、今大会でも優勝候補の筆頭だ。にもかかわらず、本当に1秒もテレビで報道されなかったのか。大本に電話を入れると彼は言った。
「ようやく昨日(13日)、YouTubeでTBSが流してくれましたけど、それまでは私が知る限り1秒も報道されませんでした。ニュースなどで映像を流すには少なくても5台のカメラを動員するらしいんです。水球の会場には1台しかカメラはいませんでした。最初から映像を流す予定はなかったのでしょう」
世界を相手に戦うポセイドンジャパン
日本のメディアは、何を基準に報道するかしないかを決めているのだろう? いま認知度が低いにしても、「見たら面白い」「知れば胸が躍る」、その可能性を求めて紹介する姿勢はないのだろうか。
ダイジェストで見る決勝戦は、胸のすく展開だ。日本のゴール・シーンばかりが続く。24対7だから、それも当然だろう。しかも、大本ジャパンを継承した塩田義法監督は、超攻撃的な戦法をかなり洗練したスタイルに昇華させ、ごく自然な戦法に見えるレベルに押し上げていた。かつてはエース稲場悠介に依存する度合いが高かったが、決勝では森谷雄輝が5得点、渡邉太陽、鈴木透生がいずれも4得点を挙げ、大会では渡邉が6試合計25点を決めて得点王に輝くなど、チーム全体のレベルアップも頼もしく感じられた。現在はメンバーのうち11人が海外のプロリーグと契約し活躍している。
「アジア大会前の強化試合では『オリンピックの金メダルチームより強い』と言われるイタリアのクラブチーム、プロ・レッコを相手に前半1点差の接戦を演じました。オーストラリア代表には勝ちました。着実に世界のトップレベルに近づいています」
来年には2028年ロス五輪の切符のかかるアジア選手権が待っている。
「開催地を中国に取られてしまったので、来年の世界選手権でなんとかベスト8に入って世界的な評価を確立してアジア選手権に臨みたいところです」
大本の言葉の裏には、「開催国有利」への警戒がある。熱狂的な応援がレフリーの笛に影響する場合がある。日本対中国戦の笛をどの国のレフリーが吹くかも影響する。
「いま中国の男子監督はクロアチア人なんです。もしクロアチアのレフリーが担当すると……。そのためにも日本は国際的な評価を高めて臨む必要がある」
いずれにせよ、来年もポセイドンジャパンは世界を相手にたくましい戦いを展開してくれるだろう。これを多くのファンと見つめ、共有できたら選手たちにも一層の力となるだろう。
東京2020の前には、「水球男子代表の写真集を作れないか」と出版社から打診を受けた。ちょうど「佐川男子」の写真集なども話題になっていた。水球男子は、言うまでもなく鍛え上げた肉体が眩しい。競技の本質とはやや外れるが、実は認知されれば多くの女性ファンから「推し」に選ばれるだけの魅力も秘めている競技なのだ。そういう嗅覚もセンスも、いまのスポーツメディアは欠落しているのだろうか。




