中年太りの原因は「代謝の衰え」ではなかった! 「サイエンス」に掲載、本当の原因は?
「更年期太り」の正体
したがって、運動によるエネルギー消費量(1)は「運動量(2)×エネルギー消費効率(3)」なので、(2)は多いが痩せているので(3)は小さい20代と、(2)は少ないが太っているため(3)は大きい40代、50代では、結果的に運動によるエネルギー消費量はあまり変わらないことになります。
しかし、(1)がほとんど変わらないとしても、一度太って運動量が落ち、それが習慣化してしまうと、そこから運動量を元に回復するのはなかなか難しい。つまり、痩せられない。これが運動量の低下が中年太りのひとつの要因であると考えられるメカニズムです。いかに運動量の低下を防ぐかも、中年太りにならないための鍵といえるでしょう。
さらに、中年太りを考える上で注意すべきは「蓄積」です。というのも、大阪大学の学生を調査した結果によると、実家暮らしより、ひとり暮らしの学生のほうが太りやすいことが判明しました。この原因のひとつは、ひとり暮らしのほうがピザやチキンナゲットなどの高脂肪でカロリー密度の高い「UPF(超加工食品)」のような食事を多く摂る傾向にあることです。これに加え、ひとり暮らしのほうが大学に近い場所に住むことになるので、通学の手間が省かれてカロリー消費が抑えられるためではないかと考えられます。
同様の理由から、人生で最も太りやすい時期は、大学入学以外に、就職、結婚の時期だといわれています。それぞれのタイミングでひとり暮らしを始めたり、デスクワークによって運動量が減ったり、食生活が変化して太る。こうした人生のイベントを機に太った分の「蓄積」が、中年太りという結果をもたらしている可能性があるのです。
女性の「更年期太り」の原因は?
また、女性は中年太り以外に「更年期太り」するともいわれてきましたが、体重増加という観点から考えた場合、やはり同様の理由から、更年期だから太るのではなく、実は出産や育児などによる運動量の低下等を原因とする体重増加の蓄積が、更年期太りとなって現れるに過ぎない可能性が高い。つまり、更年期だから体重が増加するのではなく、それまでの積み重ねの結果と考えられるのです。
ただし、「体重」ではなく「見た目」の更年期太りはあるといえるでしょう。
女性ホルモンは身体に皮下脂肪を蓄える役割を持ち、女性らしい柔らかな身体つきをもたらします。この女性ホルモンが更年期になると一気に減少し、皮下脂肪を蓄える能力が衰えます。その代わりに、内臓脂肪や血中の中性脂肪が身体に蓄積されやすくなる。内臓脂肪が増えると腹囲も増加するため、ぷっくりとお腹が出るという「見た目上の更年期太り」につながるのです。
ここまで中年太りや更年期太りについて説明してきましたが、そもそも近年、日本人全体が肥満化の傾向にあるといえます。日本人全体のBMI平均値は年々上昇している。要は、日本人は毎年太り続けているのです。その原因は、食生活の変化にあると考えられています。
今年、英国の「Nature Medicine」誌に発表された論文では、被験者に脂質を抑えた低脂質食(白米などを中心とした食事)と、糖質を控えめにした低糖質食(白米の量が少なく、肉などの量が増加した食事)のメニューを提示し、バイキング形式で自由に食べていいと指示した場合、後者を選んだ人のほうが多くのカロリーを摂取したことが明らかにされています。
ハンバーガーなどを食べると多く摂取される脂質は1グラムあたり9キロカロリーで、白米などに多く含まれる糖質は1グラムあたり4キロカロリー。脂質のほうが、カロリー密度が高い。同じ満腹感を得る、すなわち胃の容量を満たした場合、必然的にカロリー密度の高い脂質を多く食べることになる低糖質食のほうが摂取カロリーが多くなるのです。
このことから考えても、日本人のBMIが年々増加している背景には、低脂質食から低糖質食へという食生活の変化があると考えられるのです。
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