【豊臣兄弟!】妻に配慮しすぎる秀吉、自分で結婚を決める茶々…なぜ戦国時代の常識と「かけ離れた」人物像ばかり描くのか

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別妻を娶るべきだと主張して罵倒されるナンセンス

 大坂城内の廊下を羽柴秀長(仲野太賀)が通ると、「このたわけがっ! ふざけたことを申すな!」と怒鳴る声が聴こえ、石田三成(松本怜生)が部屋から蹴飛ばされてきた。NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』の第39回「茶々の本心」(10月11日放送)。

 怒鳴っていたのは加藤清正(伊藤絃)と福島正則(松崎優輝)だった。なにを揉めているのか秀長が問いただすと、三成はこう答えた。「私はただ、殿下がもう一人、妻をお迎えになるべきだというただけでござりまする」。

 これに対し、正則は「ただ? だけじゃと?」と問い返し、「寧々様のお心を傷つけたいのか!」といった。秀長に落ち着くようにいわれて座った3人だったが、三成が「ひとついうておくが、武家の当主が後継ぎを絶やさぬようにするのは、世の習いにござりまする」と説明すると、清正が「あぁ?」と声をあげ、「殿下とお寧々さまはほかとは違うんじゃ」といい、こう続けた。「殿下は一介の百姓からここまで上り詰めたお方。それを支えてきたお寧々さまを、悲しませるような真似はなさらぬ」。

 だが、秀長の考えは三成と同じだった。「関白という大きな力を後の世につなげるには、やはり実子がいたほうが安泰じゃ」と秀長もいう。それを聞いても清正は「私はその考えには従えませぬ」といい、正則も「われらはお寧々様をお支えいたしまする」と反発した。

 その後、秀長から、豊臣の世を後世に継ぐために「あらたな妻」を娶るべきだといわれた秀吉も反発した。秀長から「わしは茶々殿しかいないと思うておる」と聞くと、動揺してさらに反発した。「頭を冷やせ! いくつ離れていると思うておる? いや、そんなことはどうでもよい。寧々が、どれほど傷つくか。茶々がここに来て2年、寧々はまことの娘のようにかわいがっておったのだ。その茶々をわしが娶るなど、いえるわけがなかろう!」

 結論を先にいえば、ここに挙げた一連のやりとりに、筆者は大きな違和感をいだいた。違和感の正体というべき理由は、大きく三つか四つに分かれる。

別妻を持つのは浮気や不倫と次元がまったく違った

 一つは、秀吉が別妻を持つという話に対し、正妻が傷つくということが大真面目に取り沙汰されることへの違和感である。当時の婚姻形態は一夫多妻であり、別妻とは家の存続や外交のために欠かせないものだった。すなわち、原則として、現代人が想像するような不倫とか浮気といった次元とは異なり、遊び心や性欲とは切り離して考えるべきものだった。したがって、「寧々様のお心を傷つけたいのか!」「寧々が、どれほど傷つくか」といった発想自体、存在しなかったと思われる。

 私たちが忘れがちなのは、過去の時代は生まれた子供が成人前に亡くなるリスクが、いまと比較にならないほど大きく、とりわけ戦国時代は、男性の死亡率がきわめて高かったという事実である。そもそも、当時の武将たちが戦いを繰り広げた最大の理由は、家を栄えさせるためだが、その家は子孫を多く残さないかぎり存続できなかった。だから、加藤清正や福島正則がどれほど寧々の世話になっていようと、別妻を持つべきだという提案に感情的な反発をしたはずがない。

 三成が「もし於次様(註・秀吉の養子の於次秀勝)に万一のことがあれば、この家はだれが継ぐのです?」というと、清正は「秀次様がおられるではないか」といい、正則も「秀次様ならなんの憂いもなかろう」といったが、その「なんの憂いもない」人物の生命も、この時代は高いリスクに晒されていたという事実が顧みられていない。

 むろん、制度は制度で、個人の感情は別に存在したに違いない。だから、押し殺した感情をうまく描ければ、ドラマに深みも生じるだろう。だが、清正や正則をムキにさせ、秀吉にまで「寧々が、どれほど傷つくか」といわせた時点で、歴史ドラマを逸脱し、歴史劇風のファンタジーになってしまっている。

 二つ目は、秀吉が別妻を持つべきだ、と周囲が心配するという状況設定が、ナンセンスだということである。秀吉の別妻には茶々のほかにも、茶々の従姉でもある「松の丸殿」こと京極龍子、前田利家の娘の「加賀殿」こと前田摩阿、織田信長の娘の「三の丸殿」らが知られている。周囲が心配する前に、秀吉は高貴な血筋の女性を別妻として次々と受け入れていた。ちなみに、戦国時代において、正妻も別妻も妻は妻で、家同士の合意にもとづく婚姻手続きを経て迎え入れられた。

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