「単行本化は待ってほしい。これから本当の下り坂が来ますから…」 オイルショックを予見した「堺屋太一さん」が連載小説の刊行に待ったをかけた深い理由

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「のこり2ページは〈白〉になるよ」

「ところが、原稿は、400字詰めで10枚しかできていない。連載小説は、1回が5ページですが、原稿は16枚必要です。堺屋さんは『明日の朝までには、残り6枚、できますから』と、これまた平然と、奥へ下がっていく……」

 A氏は、その10枚を握りしめ、編集部へもどって、進行担当のNさんに事情を打ち明けた。Nさんは困惑した表情で、「これだと、5ページのうち、3ページしか埋まらないな。残りの2ページは〈白〉になるよ」といった。

〈白〉とは、文字通り、なにも印刷されていない状態のことである。A氏の脳内に「減給処分」の4文字がチラついた。泣きそうになっていると、Nさんが助け舟を出してくれた。「仕方ない。台割りを変えよう。目次も変更だ」。

「台割り」とは、どの〈折〉にどの記事を入れるかの構成を配分する、いわば「基本設計図」である。Nさんは、

「明日校了の〈折〉のなかの広告2つを、今夜校了の〈折〉に移す。それで2ページ埋まる。のこり3ページに、いまもらってきた原稿をぶち込もう。明日もらってくる6枚は、明日校了の〈折〉の、空いた2ページに突っ込む。もし、明日6枚をもらえなかったら、ほんとうに〈白〉になるよ」

 要するに、1回の小説を、前半3ページは土曜校了、後半2ページは日曜校了に、分けてしまおうというのだ。ページはつづいているので、読者にはわからない。入り広告が多い時代だったので、そのような融通も可能だった。Nさんは、すぐ広告部に電話をかけ、その広告主はページの移動が可能かどうかを確認した(掲載個所を指定するスポンサーもあるのだ)。幸い、問題ないという。

「翌朝、のこり6枚もいただき、無事に校了しました。結局、連載中に、“東京駅待ち”が3回、“分割校了”が4回ほどありました」

 それでも、奇跡的に1回もオチる(連載休止)ことなく、全62回をまっとうした。

「前例のない、“経済時代小説”という異色ジャンルでしたが、なんとか1984年9月に連載は終了しました。さっそく出版部と連携して、単行本化の準備に入ったのですが……」

 なんと、堺屋さん本人から「まだ単行本化しないでほしい」との要望が来た。

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