「本当にいじめをしたんですか?」問われた小山田圭吾は、何と答えたか 障害のあるアーティストたちとのコラボで奏でた音
竜巻のように巻き起こって、そして去っていったあの騒動は、一体何だったのだろうか?
ミュージシャン・小山田圭吾に関する情報は、「過去の障害者いじめにより、東京オリンピック・パラリンピックの音楽担当を辞退した人」と上書きされたまま、多くの人の中でそこで止まっている。
「そういえば、あの時のあれは」
と振り返ることもなく、世の中は次々と巻き起こる炎上に忙しい。
【写真】小山田とコラボした13人の作家たち 東京展の模様 ほか
これは、彼ひとりの問題なのだろうか?
2025年7月23日、知的障害のあるアーティストたちの表現を軸に、小山田圭吾がコラボした楽曲「Glow Within」がリリースされた。アーティストたちが日々のルーティンの中で生み出すさまざまな音や声をもとに、小山田圭吾(Cornelius)が作曲した。マジックのキュッキュッという音、キャップの落ちる音、折り紙を折る音、制作時の歌うような声、それらが軽やかにリズムを打って音の波に乗る。13人のアーティストの制作風景もMVにぎゅっと詰まっている。
小山田にこの楽曲の依頼をしたのは、ヘラルボニーだ。
ヘラルボニーとは、障害のあるアーティストのアート作品を軸にIPビジネスとして展開しているクリエイティブカンパニーである。「かわいそうな人たちを支援するために買おう」という商品ではなく、「多少高いけど欲しいから思い切って買っちゃおう」と思われるクオリティの高い商品を作り、ビジネスとして成立させている。
起業したのは一卵生兄弟の二人。四つ上の兄は、重度の知的障害を伴う自閉症と診断されている。兄と暮らす自らの経験から「障害」を新しい価値観で捉え直し、主に知的障害のあるアーティストの作品をプロダクト化している。しかしビジネスに加えてインパクトがあるのは、人々が無意識にタブー視しているその中に、真っ向から切り込んでいくスタイルとメッセージ性である。
今回のプロジェクトにもその特徴がよく表れている。ヘラルボニー代表取締役Co-CEOの松田崇弥は小山田圭吾の炎上に関して、こうnoteでつづっている。
これは、彼ひとりの問題なのだろうか?
これは、彼ひとりの問題ではないはずだ。
「障害は、欠陥だ」「障害者は、哀れだ」
そんなこの国の空気を止めなければ、障害の未来は変わらない。
(2021年7月23日のnoteより)
さらに、楽曲リリース直後にはこう述べている。
人生を摘み取る「一発アウト社会」に対する警鐘でもあり「人は変われる」という希望を、音楽という形で世に投げかける楽曲の形をした問題提起でもあります。
(2025年7月28日のFacebookより)
小山田圭吾さんに直接会う機会を作って
一方で、音源を提供する本人や家族たちはどう感じたのだろうか。取材し、直接お話を伺った。
「また炎上するのではないか」
「何もわざわざ掘り返しに行かなくても」
「実際いじめられた経験のある人は、辛かった記憶を思い出すかもしれない」
「自分が参加するならまだしも、自分で判断できない娘を参加させていいのだろうか」
家族には多くの葛藤があった。その中で音源を提供した輪島貫太(19)本人ははっきりと言い切った。
「僕はいいと思いました。僕は東京オリンピックが本当に楽しみでした。でもいろんなことがあって、がっかりしました。そのことがずっと心に引っかかって、そのことを何年間もずっと考えていました。だから、小山田さんに会いたいと思いました」
輪島貫太は一つ気になることがあると、とことん考え続ける。これは自閉症の特性の一つでもある。気になることに関して長く集中力を保つことが、特有の作風へとつながってもゆく。東京オリンピックもずっと楽しみに考えていたことの一つで、それは絵にも表現されていた。
アーティスト側の家族は小山田とのコラボへの参加を承諾するにあたって、一つの条件をヘラルボニーに提示した。
「アーティスト本人が小山田圭吾さんに直接会う機会を作ってほしい」
参加アーティストの一人fuco:(24歳)の母親・瀬戸口庸子はその理由をこう語った。
「もし、このプロジェクトに参加することによって問題が起こった時、ヘラルボニーのせいにしたくなかったんです。直接小山田さんに会って、周りの人に自分の言葉で感じたことを伝えられるようにしたかった。そしてfuco:が小山田さんと会って、楽しい時間が過ごせればそれでOKだと思いました」
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