高齢者は免許返納しない方がいい? “弱い高齢者”にならない秘訣を専門家が伝授

ドクター新潮 健康 長寿

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 人生100年といっても、喜んでばかりはいられない。健康を失った悲惨な年月が増えるだけなら、いくら老後資金が潤沢でも、幸福からは遠ざかってしまう。つまり、これからは老年格差が激化する時代。「負け組」にならないための処方箋を和田秀樹氏が授ける。

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 少し前まで夢物語にすぎなかった「人生100年時代」が、いまでは現代日本のキーワードの一つになり、首相官邸には「人生100年時代構想会議」が設置され、超長寿社会のグランドデザインについて検討が重ねられています。

 その際に前提にされているのは、できるだけ長く現役でいられる社会です。もちろん、だれもが死ぬまで現役でいられるに越したことはありませんが、高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって経験を積んできた私から見ると、机上の空論にすぎない点が少なからずあります。

 たしかに現在の60代、70代は、30年前の同年代にくらべて元気で若々しく、体力的にも10歳分程度は若いと思います。100歳とはいかずとも、半数以上の人が90代半ばまで生きるような時代は、近くまで来ているはずです。

 とはいえ、私たちが100歳近くまで生きるようになる最大の理由は、若返るからではありません。医学の進歩によって病気が克服されて、死ななくなるからです。もちろん、さまざまな臓器が若返り、長く健康を維持できるならいいでしょうが、それでも脳の老化だけは止めることができません。脳の神経細胞は原則、細胞分裂せず、同じ細胞を使い続けるからです。

「早死にするか認知症になるかの時代」

 私はかつて浴風会病院に勤務していたとき、年間約100例の高齢者の病理解剖報告会に出席していましたが、85歳以上でアルツハイマー型認知症の変性が脳にない人は皆無でした。

 要するに、「人生100年時代」は極端にいえば、「早死にするか認知症になるかの時代」です。老後が10年から30年に増えた分、10年や20年を認知症とともにすごすということです。

 しかし、悲観することはありません。「人生100年時代」とは、言い換えるなら、老年格差が顕著になる時代。それは、心がけ次第で勝ち組になれる時代でもあります。

 そういう時代に向けての戦略は、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の視点からも、老化をなるべく遅らせ、頭がシャキッとして体も動きやすい期間を長く保つこと。そして脳をなるべく長持ちさせ、仮に認知症になったとしても、その進行を遅らせて生活の質を維持すること。そのための対策を、これから解説していきます。

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