高知東生のいま 本人が語る「歌手の鞄持ち」「小説執筆」「自助グループ」参加

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「正直に生きるっていいね。誰とも比べなくていい。今の自分が一番好きかな」

 俳優・高知東生、57歳。薬物依存症から回復の途上にいる。ちょうど1年前、2021年年明けに拙著『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』(毎日新聞出版)の取材で会ったとき、彼はちょうど初めての小説を書き終えたばかりだった。それから1年、新型コロナウイルスで揺れに揺れた首都圏で彼は粘り強く自助グループに参加し続け、社会との接点もつくっていた。その表情も言葉も力強い。コロナ禍でも前を向き、活動を積極的にこなす高知に、過去、現在、そしてこれからのことを聞いた。【聞き手・石戸諭】

「彼女のことはやっぱり愛していた」

 彼と初めて会ったのは2020年2月だった。薬物依存症をテーマにしたイベントで薬物問題の取材経験もあるから、という理由で私が司会進行役を務めることになり、高知がゲストとしてやってきた。当初、観客を入れて開かれるはずだったイベントは、新型コロナウイルスの影響で急遽、無観客で配信のみに切り替わった。

 小さなスタジオでカメラテストをしているとき、彼は何度も「緊張」していると語った。

「いやいや、高知さん。何を言っているんですかテレビカメラの前で演技するより気楽なものでしょう。きょうはみんな高知さんの言葉を聞きたいんですよ」

「そんなことないって。テレビは台本あるやん。今は、何も無いし、もうなにを話したらいいのかわからんもん」

 その頃、彼はまだ人前に出てどこまで正直に語るべきかを模索している最中だった。

 高島礼子の夫(後に離婚)として、「役者夫婦」「格差婚」で芸能界をにぎわせていた高知は2016年6月24日、覚せい剤と大麻所持の現行犯で愛人とともに、ラブホテルで逮捕された。判決は「懲役2年執行猶予4年」である。彼は逮捕と裁判によって回復への道を手に入れた。

「今でも思う。彼女のことはやっぱり愛していた。役者として同志でもあり、大好きだった。彼女の父は義理の父親だけど、俺にとっては本当にお父さんと呼べる人だった。でも歪んだ『男たるもの』という幻想に捉われていたのかな。愛しているからこそ黙ってやればいいと思っていた。だから彼女は本当に何も知らなかったんですよ」

 覚せい剤は愛人の女性が手に入れたものをつかっていた。嘘がばれないように「アリバイノート」を作り、行動と言葉に矛盾がないよう妻には徹底的に秘匿した。覚せい剤、愛人、そして自分を偽って生きること。逮捕によって、隠すものがなくなり、危うい人間関係も断ち切った。

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