高知東生のいま 本人が語る「歌手の鞄持ち」「小説執筆」「自助グループ」参加

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月に一度集まって近況を報告

 新型コロナ禍にあっても、高知は2つの自助グループへの参加を続けていた。一つは著名人同士で集まるグループ、もう一つは経営者らで作るグループだ。自助グループは同じ経験を持つ仲間同士で集まることで、経験をわかちあい、回復をサポートする存在と考えればいい。

 国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生は「自助グループ」についてこう説明している。

「お酒や薬を一緒にやめ続けるために集まって互いの話に耳を傾けるなどの活動をするグループです。もともと依存症は意志が弱い人がなるとか、反社会的な性格の人がなると考えられてましたが、医師がサジを投げたような患者がこの自助グループに参加して回復をしたということが次々と報告されて、今や世界中で広がっています」

 室内で距離を取る、マスクを着用するといったルールを作り、月に一度集まって近況を報告する。誰かが話しているときは決して遮ることなく、周囲は傾聴するだけだ。密を避けろという声が高まる中にあって、なぜ続けることにしたのか。

「弱さを共有して一緒にやり直すことはできる」

「人から常に見られているストレスというのは、人前で仕事をしていた者同士でしかわからないものがあるから。もちろん仕事の喜びも共有できる。著名人グループではわかっている者同士で語り合うことで、楽になることもあるんだ。もう一つのグループは抱え込んでしまった孤独、自分が作り出した孤独をわかちあう場所かな。

 自助グループの語りを聴いていて思うけど、みんな真面目で、責任感も強い。でも俺もそうだったけど、みんな自分で勝手に作り出してしまう孤独の中にいた。人はこう考えているんじゃないかとか、自分はうまくできていないと考えてしまって、人を頼れなくなってしまう。気がつくと、一人になっていて薬物に手を出す。でも、弱さを共有して一緒にやり直すことはできるのよ」

 自助グループでの語りを通して、彼は素直でいることの価値に気がつく。母親との別れ際に、素直に「綺麗だよ」と言えることができれば……。人生の転換点をようやく冷静に振り返ることができるようになった。

「自分に正直でいるって楽だし、本当に楽しい。あぁ俺って本当に嬉しい時ってこんな顔をするんだってことがやっとわかった。50歳すぎて、ようやく本当の自分がわかった気がするよ。今はいつか、おふくろがいる場所に行った時、気持ちを伝えたいと思っているよ……」

 高知東生、フリーランスのエンターテイナー。歌、演技、小説と幅を広げた表現活動と成熟へ。彼は薬物依存症の回復を人に見せることで、豊かに生きている。

石戸諭(いしど・さとる)
1984年、東京都生まれ。2006年、立命館大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanを経て独立。現在、「文芸春秋」「サンデー毎日」「ニューズウィーク日本版」「日経サイエンス」等に執筆。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)『ニュースの未来』(光文社新書)。近著『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』(毎日新聞出版)『視えない線を歩く』(講談社)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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