高知東生のいま 本人が語る「歌手の鞄持ち」「小説執筆」「自助グループ」参加

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「歌は自分の気持ちで歌いなさい」

 2021年、年の瀬に高知のスケジュールはぎっしりと埋まっていた。

「今は本当に忙しいよ。師匠(清水節子)がちょうど新曲を出したばかり。新型コロナの感染も少し落ち着いてイベントの制限なんかも解除されたから、師匠についてあちこち営業で回っている。結構、お声がかかるのよ。俺は付き人みたいに車の運転もすれば、師匠の鞄も持つ。イベントで司会もする。師匠の歌の合間に俺も歌う時間があるんだけど、師匠のファンから『のぼる〜』って声がかかるのよ。自分の過去を知りながら、応援してくれる。これが嬉しくてさ……」

 執行猶予中から彼に声をかけ、芸能の世界へと道を作った清水はなかなか含蓄のあるアドバイスを送っている。レッスン中になにかとうまく曲を歌おうとする高知に、彼女はこんな言葉をかけた。

「うまく歌おうとしているね? うまく歌おうなんて思わなくていい。歌は自分の気持ちで歌いなさい」

 振り返れば、彼の人生は常に同じ論理で動いていた。目標とする誰か、ライバルとする誰かを決めて追いつき、追い越せでがむしゃらに頑張る。上へ、上へと目標を更新し、他人の顔色を窺い、期待に100%応える。「失敗した自分」「ダメな自分」は常に否定の対象だった。特に高知を苦しめていたのが、「完璧にやりたい」「相手の気持ちに100%応えたい」という生真面目さだった。

 よく誤解されがちなことだが、薬物にはまり込む人々は、実は真面目で、仕事に真剣に打ち込む人物が多い。なぜか。彼らは周囲からの「承認」がなければ、自分を保つことができず、常に周囲の目を気にしている。良く言えば期待に応えようとしているのだが、別の見方をすれば、自分に自信が持てず、常に何かで取り繕おうとしている人たちだ。

 自分の弱さを認められないがために、薬物に依存する。仮に一旦、薬物をやめられたとしても、根本にある心の問題を自覚しなければ、例えば他人と自分を比べ、嫉妬心から薬物に手を出すといった再発リスクを抱える。彼もまた例外ではなかった。医療は薬物をやめる手助けまではできても、心の回復まで付き添うことはできない。そこから先に必要なのは、つながる人の存在だ。

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