『それでもボクはやっていない』周防正行監督が語った“日本で冤罪が起こる理由” 【袴田事件と世界一の姉】

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証拠開示の重要性を説く周防氏

「法学部出身でもなく、ましてや司法試験を受けたこともない、まったく司法の素人ですから『間違っていたら指摘してくださいね』と、小川先生(袴田巖さんの弁護団事務局長・小川秀世弁護士)に頼んでいるんです」と切り出した講演は、意外と言っては失礼かもしれないが、かなり硬派な語りぶりだった。奥さんが『Shall We ダンス?』に主演した女優の草刈民代さんで、華やかな映画界や芸能界に関わる人物だけに、砕けた話し方をするのかなと想像していた。

「2002年に新聞で、東京地裁で有罪、(東京)高裁で逆転無罪になった痴漢冤罪事件を知りました。どんな経緯だったんだろうと関心を持って取材を始めたんです」

 その時、周防氏が取材したのは西武新宿線での痴漢容疑で逮捕・起訴された矢田部孝司さんだった。服飾デザイナーの矢田部さんは妻・あつ子さんとともに必死に戦い、見事に濡れ衣を晴らした。筆者も『「この人、痴漢!」と言われたら――冤罪はある日突然あなたを襲う』(中公新書ラクレ)を執筆する際、お会いして取材したことがある。

「取材を始めた頃、証拠というのはすべて裁判所に出されているとばかり思っていましたが、そうではなかった」と打ち明けた周防氏は、証拠開示の重要性を挙げた。

「痴漢事件は証拠がほとんどありません。爪に(女性の)下着の繊維が残ることなどもありますが、もし鑑識で出てきたら喜んで警察は証拠として出してくる。しかし、鑑識で出てこなかったら、結果を警察は出してこない。鑑識もしなかったことにするんです」。そして「警察・検察は有罪立証に不利になる証拠は裁判所に出さず隠してしまうのです。中には警察が検察に不利な証拠を送致しないこともあります」とも話した。

 滋賀県の病院で死亡した患者をめぐって、殺人罪で有罪となり懲役12年を満期服役した元看護助手の西山美香さんが、2020年3月に再審無罪となった。「湖東記念病院事件」と呼ばれるこの冤罪事件の再審請求審では、「自然死の可能性」を示唆していた専門家の鑑定を、滋賀県警が大津地検に報告していなかった事実が明るみになった。

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