2020年の朝鮮半島 「帰らざる橋」を渡り始めた韓国 南北クーデターの可能性に注目

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「米軍撤収」に誘導

――結局、「米軍は出て行け」との要求なのですね。

鈴置:その通りです。それが北朝鮮の長年の「願い」です。文正仁特別補佐官の「中韓同盟」発言の目的もそこにあります。

「在韓米軍がいなくなる、あるいは米韓同盟が消滅すれば、我々は誰に守ってもらえるのだろう」と不安になる韓国人が多い。

 文正仁発言は「中国が核の傘で守ってくれるから米韓同盟がなくなっても大丈夫だ」と国民を安心させる効果があります。もちろん、米国に対する当てつけも狙ったのでしょうが。

――「出て行け」と言えば出て行くのですか、米軍は。

鈴置:韓国政府が仕掛けるのは反米集会などの嫌がらせだけではありません。制度的にも米軍撤収の準備を進めています。韓国軍の戦時の作戦統制権を引き渡すよう求め、米国に呑ませ済みです。

 これに伴い、米韓連合司令部のトップも韓国側が出すようになります。すると、米国は韓国から軍を撤収する可能性が高まります。一定規模以上の部隊の指揮は他国に任せない、との原則を米国は持つからです。

 米韓の間では明確な期日を確定していませんが、文在寅政権はその任期が終わる2022年5月までに実現するつもりです。

日本が独島に攻めてくる

――在韓米軍がいなくなっても同盟は続くのでは?

鈴置:「駐留なき安保」論ですね。韓国の場合、それは難しい。在韓米軍の撤収とともに、同盟も壊れる可能性が高い。米韓同盟には自動介入条項がないからです。今は在韓米軍が存在するからこそ、自衛の意味から侵略者に対し米軍は戦います。

 しかし米軍撤収後に北朝鮮や中国が韓国を攻めた際、米国が軍を送るかは疑問です。その義務はないからです。これまでなら他の同盟国が米国を信頼しなくなる、との懸念から米国は介入したと思います。

 でも、これだけ露骨に韓国が「離米従中」に走った以上、その懸念は薄れます。同盟国は「韓国は不実だったから見捨てられた」と考えるからです。むしろ米国は「裏切り者の末路」を示すことができるのです。

――在韓米軍が撤収したからといって、侵略されるとは限らない……。

鈴置:もちろんそうです。でも、侵略の可能性が増すのは事実です。例えば、日本。米軍がいなくなれば日本が竹島(韓国名・独島)を取り返しにくると多くの韓国人が信じています。それ以上に北朝鮮、中国、ロシアからの攻撃に備えた方がいいと思いますが。

 結局、そうした可能性に備え、韓国人は新たな同盟国が必要になります。核保有国に囲まれていますから、新たな同盟の相手も核を持っていなければ意味がありません。

 左派は同胞である北朝鮮の核の傘を頼ろうとします。ただ、「北の非核化」が叫ばれている最中ですから、露骨には言えない。そこで中国の傘に入るフリをしつつ「民族の核」を頼るわけです。

 文正仁特別補佐官の「中韓同盟論」も、その臭いが濃い。「中国との同盟」を示唆しつつ、最後は「民族の同盟」に持って行くつもりと思われます(「ついに『中韓同盟』を唱え始めた文在寅政権 トランプ大統領は『韓国は北朝鮮側の国』と分類」参照)。

左派に勝てない親米保守

――韓国の親米保守派は同盟を守ろうと立ち上がらないのですか?

鈴置:保守は連日のように大衆集会を開き、文在寅政権を糾弾しています。掲げる罪状の1つが「同盟破壊」。集会には太極旗とともに星条旗も掲げられるのが普通です。

 保守は死に物狂いです。左派が北朝鮮と組むことにより「民族の核」を持てば、左派が永久に天下をとることになります。

 北朝鮮と関係の良い南の政権だけが「核のおすそわけ」を享受できるからです。左派の天下の下、保守に生きて行く余地は与えられないでしょう。

――保守の政権打倒運動は成功するのでしょうか?

鈴置:その可能性は低い。文在寅政権の任期はまだ、2年半も残っている。政権半ばで倒すには、弾劾して罷免するしかありません。

 それには2016年の朴槿恵(パク・クネ)打倒運動の背景にあった国民的な反政府感情の高まりが必要ですが今の韓国に、そんな空気はありません。

 不正入学やインサイダー投資など、大統領と近い法相一家のスキャンダルが発覚しても政権の支持率はさほど落ちませんでした。その後も、選挙介入や捜査妨害など青瓦台(大統領府)がらみの疑惑が相次ぎ発覚しましたが、国民的な怒りには高まっていません。

 そもそも弾劾には国会で3分の2の議席が必要です。野党第1党の自由韓国党に、その他の保守・中道政党を足しても3分の2に届きません。

 2020年4月に総選挙がありますが、自由韓国党はそこで3分の2をとるどころか、現在の50%弱の議席を守るのも難しいと見られています。与党の「共に民主党」が小政党を味方に付け、比例代表議員の比率を増やした選挙制度改革に成功しかけているからです。

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