2020年の朝鮮半島 「帰らざる橋」を渡り始めた韓国 南北クーデターの可能性に注目

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3度目のクーデターは可能か

――残るはクーデターですね。

鈴置:確かに「左派を倒すのはクーデターしかない」と言う韓国人が増えています。ただ、「今の軍部にクーデターを敢行する根性はない」と言い切る人が多いのも事実です。

 建国以来、韓国軍は2度にわたってクーデターに成功しました(「曺国法務長官が突然の辞任 それでも残るクーデター、戒厳令の可能性」参照)。

 いずれも独裁政権が倒れ、民主化ムードが高まった時でした。共通したのは「民主化はいいけど、国が混乱すると北朝鮮に付けこまれる」と、国民が不安になった時でもありました。

 軍事力を行使するクーデターといっても、名分と共感が必要です。当時と比べ、今は北朝鮮に対する敵愾心と警戒感が極度に薄れていますから、クーデターは容易ではありません。「軍人の根性」だけの問題ではないのです。

――では、韓国では絶対にクーデターは起きない?

鈴置:世の中に「絶対」はありません。保守がさらに追い詰められれば、例えば、検察に代わって上級公務員の不正を取り締まる「高官不正捜査庁」が発足すれば話は変わってきます。

 「上級公務員」には検察官や軍人も含まれます。保守政権を守ってきた2つの勢力を狙い撃ちにして左派の永久執権を図る組織、と保守は見なしています。

 だから現在、文在寅大統領に近い前の法務長官の曺国(チョ・グッ)氏に捜査の手を伸ばすなど、検察が政権打倒に立ち上がったのです。「検察だけが左派と闘っている」との声も保守からはあがっていますから、「軍も立つ」可能性を完全には否定できないのです。

65%が「米軍削減やむなし」

――でも、ざっくり言えば、2020年にはずるずると米韓同盟の解体が進む……。

鈴置:そう思います。まずは、在韓米軍の分担金問題が加速するからです。一気に約5倍の、47億ドルとされる分担金要求には韓国の保守も苦い思いで見ています。

 シカゴ国際問題評議会が12月9―11日に韓国人1000人に聞いた世論調査によると、56%が「北朝鮮との武力衝突の際、韓国だけで勝てる」と信じていることが明らかになりました。半分以上の韓国人が、在韓米軍は不要と考えているのです。

 分担金交渉で合意できなかった場合について聞いたところ、54%が「同盟は維持すべきだが、在韓米軍削減やむなし」、9%が「同盟は維持すべきだが、米軍は撤収するべきだ」、2%が「同盟を終えるべきだ」と答えました。一方、「同盟も在韓米軍も現状通り続けるべきだ」と回答したのは33%でした。

 要は65%、約3分の2の韓国人が「自分の気にいらない分担金を払わされるくらいなら在韓米軍を削減しても、完全撤収しても、あるいは同盟を打ち切ってもいい」と考えているわけです。

 この世論調査の結果は「While Positive toward US Alliance, South Koreans Want to Counter Trump’s Demands on Host-Nation Support」(12月16日)で読めます。

 分担金交渉を機に、在韓米軍の削減・撤収が始まる可能性がかなりあります。米国側だって、トランプ(Donald Trump)大統領自身が「在韓米軍の兵士を故郷に返す」と公約しているのですから(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

文在寅を脅しあげた習近平

 もう1つの同盟破壊要因が「中国の圧迫」です。米韓の間の亀裂を見て、そこに中国がくさびを打ち込み始めました。

 12月23日の北京での中韓首脳会談で、習近平主席は文在寅大統領に対し、米軍が韓国に配備したTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)について「妥当な解決を望む」と語りました。撤去を要求したのです。

 朝鮮日報の「習近平、文大統領に『THAADは妥当な解決を望む』」(12月23日、韓国語版)が伝えました。

 2017年10月31日、韓国は「これ以上はTHAADの配備を認めない」との条項をふくむ3つのNO(三不)を中国に約束しました。文在寅政権は「これでTHAAD問題は解決した」と発表しましたが、今になって中国は完全な撤去を要求し始めたのです。

 中国外交部のサイト(12月23日、中国語)によると、習近平主席は「保護主義、自分勝手なやり方、強圧が世界に逆行して混乱を呼び、平和と安定を脅かしている」とも強調しました。

「保護主義、自分勝手なやり方と強圧」とは、米国による中国包囲網を指します。習近平主席は「その一環たるインド太平洋戦略に加わったり、中距離ミサイル配備に同意したら承知しないぞ」と、韓国を脅しあげたのです。

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