2020年の朝鮮半島 「帰らざる橋」を渡り始めた韓国 南北クーデターの可能性に注目

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2019年12月25日掲載

  • ブックマーク

ヘビに睨まれて「香港は内政問題」

 文在寅大統領は「ヘビに睨まれたカエル」でした。「香港、新彊ウイグル自治区に関わる問題は全て中国の内政だと韓国側は認識している」と述べました。

 香港などでの中国の人権弾圧に対し西側が批判を強めている中で、徹底的に習近平主席にゴマをすったのです。中国政府が外交部のサイト(12月23日、中国語)に載せました。

 韓国政府は「そうは言っていない。習近平主席の内政問題との発言に文在寅大統領が『承った』と答えただけ」と説明しました。

 しかし、仮に韓国側の説明が本当だったとしても、その場で習近平主席に反論しておらず、中国の発表に関しても訂正を要求していません。世界からは見苦しい弁解と受け止められるでしょう。

――すっかり、中国の言いなりですね。

鈴置:韓国人はついに、「帰らざる橋」――ノー・リターン・ポイントを渡り始めました。在韓米軍の削減、撤収の動きと絡んで、THAADを追い出しにかかるかもしれません。そうなれば、米韓関係は完全に破綻します。

 2020年、もう1つ見過ごせないのが、北朝鮮の体制の動揺です。米韓同盟の揺れと共振すれば、半島には間違いなく巨大な地殻変動が起きます。

外貨準備の枯渇に悩む金正恩

――北朝鮮の動揺とは?

鈴置:金正恩(キム・ジョンウン)委員長の焦りが目立ちます。米国が主導してきた経済制裁の2019年末までの解除を求め、ミサイルは撃ちまくるは口頭では脅すは、挑発の度を高めています。

 2017年末、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に国連は経済制裁を課しました。その柱の1つが朝鮮人の出稼ぎ労働者の受け入れ禁止です。2年間の猶予期間が付いていましたが、それが2019年12月22日に切れました。

 大量の出稼ぎ労働者を受け入れていた中国とロシアは、米国の顔色を見て北朝鮮に送り返す姿勢は見せています。もし本当に実行すれば、年間5億ドルと推計される外貨が北朝鮮に入らなくなります。

 これにより、北朝鮮の外貨準備は危険な状況に陥ると思われます。2017年末から発動されている北朝鮮産石炭などの輸入禁止などで、2018年以降の北朝鮮の輸出はそれまでと比べ、約半分に激減している模様です。

 一方、食料品など北朝鮮の輸入はさほど減っていません。下手すれば体制を揺らす暴動が起きかねないからでしょう。それを恐れて金正恩体制は、乏しい外貨準備で貿易赤字を補填してきたのですが、ついに底を付き始めたということでしょう。

――だから必死でミサイルを撃つなど挑発している……。

鈴置:でも、それは逆効果です。北朝鮮が逆上するほどに、米国や日本は「制裁の効果はあがっている。これを続けて行けば北朝鮮は音を上げるぞ」と考えるからです。

「金正恩打倒」と米国が唆せば……

――ではなぜ、金正恩委員長は弱点を見せてしまうのでしょうか?

鈴置:体制崩壊への恐れから、冷静な判断ができなくなっているのだと思います。制裁が続けば外貨準備が枯渇する。すると食糧を輸入できなくなり政権への批判が高まる――との恐怖です。

 厳しい監視体制の下、組織的な反体制運動は起きないかもしれません。でも、国民の不満の高まりを見て、軍が金正恩委員長を見限り、クーデターを起こす可能性は排除できません。

「お前と家族の面倒は見てやるぞ」と米国からささやかれれば、先細りの金正恩体制を裏切る軍人が出てくるだろう、と見る専門家がけっこう多いのです。

――クーデターは韓国だけではない……。

鈴置:そう、南と北の「2020年のクーデター」に目配りする必要があります。原因は南北それぞれにありますが、ひょっとすると、南から北、あるいは北から南へと伝染する形となるかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]