風邪でもないのにやたらと鼻水が出るように…抗がん剤の副作用でがん患者を驚かせたのは“髪の毛”だけでなく“意外な場所”の毛が抜けたことだった

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指の隙間に十数本の髪の毛が

 テレビ局で数多くのドキュメンタリー番組や教育番組の企画・制作に携わり、退職後は大学でメディア論について教えてきたY・Jさん(62)。その日常は、2024年7月に膵臓がんの告知を受けたことで大きく変化します。悩みながらも自身の状況を家族や友人に伝えた彼は、治療法をめぐって大きな決断を下しました。当初、想定していた標準治療ではなく、治験という選択肢を選んだのです。そして、ついに“副作用”に直面する日がやってきます。【Y・J/大学教員、映像作家】

(連載第13回)

 私が気にしていたのは脱毛だった。

 髪が抜けることは、典型的な抗がん剤の副作用として有名だ。症状は治療を開始して3週間ほどで表れた。

 シャワーを浴びた際、指の隙間に十数本の髪の毛が抜けて挟まっていた。十数本だからささやかなものだ。だが、見慣れない光景のショックは大きかった。

「いよいよ副作用が始まった」というプレッシャー、「自分はがんなのだ」という現実を突きつけられる切迫感、それに加えて、「髪が抜けるということに対する根源的な恐怖」が一緒になって迫ってくる。

 わずか十数本の抜け毛が、これまで経験したことがない非日常の始まりを告げていた。

 自分の髪の毛についてそれほど意識して生活していたわけではない。どちらかといえば毛髪は多い方で、40代、50代と歳を重ねても量は減らなかった。自分の父親やその前の代をさかのぼっても、髪の毛を残したまま歳を取る人が多かった。こんな事は何の根拠にもならないのだろうが、私も歳をとっても髪の毛が薄くなるとは思わないまま生きてきた。

 もちろん、「がん世界」の住民となった以上、いつか脱毛には直面するだろうとは思っていたものの、正直あまり深く考えなかった。

 がんになったこと自体が一大事なのだから、髪の毛は文字通り枝葉末節のことだ。いざとなれば頭を丸めればいいじゃないか、とも考えていた。しかし、脱毛が始まった証拠を目の当たりにしたショックは大きかった。

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