風邪でもないのにやたらと鼻水が出るように…抗がん剤の副作用でがん患者を驚かせたのは“髪の毛”だけでなく“意外な場所”の毛が抜けたことだった

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頭皮を冷却する方法

 よくよく考えると、髪の毛には恐怖がつきまとう。

 すぐに思い浮かぶのが『東海道四谷怪談』の「髪梳き」。毒を盛られたお岩さんは、美しかったその姿が変化していく。恐怖と醜さの象徴が「髪の毛が抜ける」ことだった。『ギリシャ神話』に登場するメドゥーサ。髪の毛は無数の蛇で、姿を見たものをたちまち石に変える力があったと言う。メドゥーサの血には、人を殺す力と人を蘇らせる力の両方があったとも伝えられている。

 髪の毛に聖なる力を見るのに洋の東西は問わない。どこか人類に根源的なインスピレーションを与えているのかもしれない。

 それはさておき、問題は「今始まった脱毛に対して何かできることは無いのか」ということだった。

 抗がん剤による脱毛を防ぐ方法を調べたところ、頭皮を冷却する方法があることを知った。頭を冷やして毛細血管を収縮させることで、毛根に届く抗がん剤の量を減らし、脱毛を抑えようというものらしい。そのための“冷却ヘルメット”のような製品まで販売されていることを妻が見つけてきてくれた。

 病院の看護師や医師に聞いても冷却の効果に関しては首をかしげられた。実際多くの男性患者を見てのことだろうから、あまり期待はできないと思った。それでも何もしないよりはいいだろうと思った。そしてどうせ始めるのであれば、早く始めないと意味がないと思った。

 届いた製品は、想像していた以上にかさばるものだった。使用する前に十分に冷やしておかなければならず、冷凍庫のかなりの容積を占めてしまう。

 食品を保存する場所が減るのでかなり困った。普段使いの冷蔵庫ではとても間に合わず、専用のコンパクトな冷凍庫を新たに購入することになった。

最初に抜け切ったのは、意外なことに

 その甲斐があったのかどうかはわからない。結果を先に言うと、私の髪の毛はかなり哀れにはなったが完全には抜け切らなかった。最初に十数本の抜け毛があってからも、コンスタントに抜け続けたものの、しぶとく残り続けていた。

 最初に抜け切ったのは、意外なことに鼻毛だった。

 抗がん剤の治療を開始してから2ヵ月ほど経って、やたらと鼻水が出るようになった。最初は風邪でもひいたのかと思った。しかし、熱があるわけでもなく、体調が特に悪いわけでもない。ただ鼻水が出る。

 そこで鼻の中を覗いてみると、鼻毛がほとんどなくなっていることに気がついた。

 鼻毛というのは、普段は邪魔な存在である。飛び出していればみっともない。ところが、なくなってみると鼻毛がいかに自分の鼻を守ってくれていたのかがよくわかった。

 鼻毛には、吸い込んだ空気に含まれるほこりなどを捕らえる働きがある。知識として知っていたが、実際になくなった状態を経験するのは初めてだった。人間の体というのは、普段は意識していないところでも、それぞれがきちんと仕事をしているものなのだと思った。

 次になくなっていることに気がついたのは、腕の毛だった。

 あるとき腕を撫でてみると、妙にすべすべしている。お腹も同じだった。いつもとは明らかに触り心地が違う。

 一体何が起こったのかと思ってよく見ると、毛がなくなっていた。

 これがなかなか不思議な感覚だった。自分の腕やお腹なのに、触ってみると、これまでとは違うものになっている。毛がなくなるだけで、こんなにも触り心地が変わるものなのか。しかも、鼻毛のときとは違って、特に困ることはなかった。むしろ、すべすべしていて触り心地がいい。

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