「彼女に脅迫されている」25年前の元恋人から届いた手紙を読んで過呼吸に… “ある一文”が50歳夫の家庭を壊しかけた

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「一緒にホテルに行って」

 優美さんの妹に連絡をとった。話を聞いてもらうのは彼女しかいない。だが、妹はあまり親身になってはくれなかった。妹にとっては7年も前に亡くなった姉のことだし、岳人さんとの関係にはそれほど関心をもっていなかったようだ。妹からもっと優美さんのことを聞きたかったのに、「私はあなたと姉との関係がわからないので」と逃げられた。

「なんだか僕、パニクっていたんですよ。妹に『お願いだから、一緒にホテルに行ってほしい。優美さんを感じたい』とすがりつき、路上で突き飛ばされました」

 周りの人たちに冷たい目で見られた。警察呼びますかという声も聞こえ、彼は逃げ出した。何をやっているんだと自分が情けなくなったという。

「新しい人生を歩み始めたつもりだったし、実際に歩んでいた。今さら過去に支配されてたまるものかと理屈では思うんです。だけど現実的にパニック障害みたいになるし、美帆には冷たい目で見られる。ひとりになるしかないと思って、近所のアパートで暮らすと妻に伝えました。妻は一言も話さなかった。彼女は僕がずっと優美さんを思い続けていたと誤解しているんです。その誤解を解くことができないし、考えているとまた気持ちがおかしくなっていく」

 ひとりでアパートにいると少し心が安らいだ。過去に惹かれた女性がいて、心中のまねごとをして結局、お互いに気持ちが引いた。それが事実なのではないかとわざと軽く解釈してみた。

「確かにそうだと思うんだけど、そうやって思い返すと、意外ともっと深刻だったような気持ちになっていく。少なくともあのとき僕は一緒に死んでもいいと思っていたわけで……。若気の至りだったと思うけど、自分の中のあの瞬間の覚悟が、鮮やかに思い出されてくるんですよ」

今、報いを受けている…

 自分の気持ちを否定せずに受け入れてみた。確かにあのときはそうだった、だけどその後は気持ちが変わった。それでいいじゃないかと納得しようとしたが、そう簡単にはいかなかった。優美さんを責めるつもりはなく、むしろ自分を責めたかった。

「あのとき逃げたから、今、その報いを受けている。そう思います。何をどう考えたらいいかわからず、ただ、ルーティンだけを繰り返す日々を送るようにしているところですね」

 つい先日、娘たちが訪ねてきた。スマホで連絡をとりあってはいたが、彼女たちがやってきたのは初めてだ。

「ママが『パパは人生に悩んでいる。そうっとしておいてあげてと言ってる』と伝えてくれました。どうやら美帆は僕の悪口を娘たちには言っていないようで、それはほっとしました。『私たちはママのそんな言葉を全面的に信じてはいない。本当のことが話せるときが来たら話して』と長女が真剣な目で言いました。大人になってるんだと感激したけど、あの一件を娘に話せるときが来るとは思えない。いや、いっそ話したほうがいいのだろうかと考えたりもしますが……」

 何をどう考えたらいいのか。その糸口さえ見つかればと彼は言う。だが、糸口は見つからないかもしれない。自分の気持ちの落としどころも、結論も求めないという手もあるかもしれない。受けた衝撃がおさまるまで、ただじっと耐えて待つ。そんな方法も選択肢に入れてもいいのではないだろうか。

 彼のショックや傷は、おそらく他人にはわかりづらい。むしろ、人にわかってなるものかと腹をくくるしかないときが、人間にはあるのではないだろうか。

 ***

 24歳のとき、8歳年上の既婚女性・優美さんと恋に落ち、心中未遂にまで至った岳人さん。2人が出会った経緯や、夫から暴力を受けていた優美さんとの関係、突然の別離については、【記事前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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