「有名な暴力団が東京進出して戦争が起きそうなんや……」 昭和の週刊誌記者を翻弄した“タレコミ” 「謎の関西弁の男」の情報を“ホンモノ”と信じてしまった理由とは

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男は地図を書き、部屋番号まで口にした

「男が語るX組の内情は、わたしが以前に取材した内容とピッタリ合っており、正確でした。やはり、週刊新潮の以前のX組の記事を読んでいて、それでうちに接触してきたようでした。記事には書かなかった、X組長の何番目かの妾がやっているクラブの名前や場所、ママさんの名前まで、正確に知っていました」

 これはホンモノらしいと思ったY記者は、詳しい話を聞きはじめた。

「品川駅高輪口からすこし行ったところに、Aハイツいうマンションがある。そこの10階の部屋が、X組の秘密基地や。いま、大量のチャカ(銃器)が、運び込まれている。ここを拠点に、東京進出をはじめるんや。たいへんなことになるで」

 男は、具体的な地図を書き、部屋番号まで口にした。

「あなたは、なぜ、そんな情報を週刊新潮にタレコミするんですか」

「はやめに記事にして警察を動かし、東京進出できんようにしてほしいんや。オレは、X組の下っ端仕事をやってたんだが、ちょっとヘタ打って(失敗して)、関西にいにくくなってな。それで東京に来とるんや。なのに、その東京へX組が出てきたら、すぐに見つかっちまうじゃないか」

「そんなら、警察にタレコミすればいいじゃないですか」

「アホ、そんなことしたら、オレが先にサツ(警察)にパクられ(逮捕され)るじゃないか」

「あらかじめいっておきますが、仮に記事になったとしても、規定の原稿料しかお支払いできませんよ。情報をカネで買うことは、していませんので」

「カネじゃない。自分の身のためや」

 40年前の出来事を克明に記憶しているY記者は、こう続ける。

「具体的にカネを要求しなかった点も、信用できるような気がしました。とりあえず、そのマンションを確認してみようと思い、1週間後に、もう一度会うことにしました。ただし、自分の居場所を知られたくないので、男のほうから電話するとのことでした」

 さっそくY記者は翌日、品川へ行ってみた。

マンションの所有者は……

 たしかにAハイツはあった。かなり大きな高級マンションである。勧誘業者を装い、部屋のインターホーンを押してみた。だが、誰も出ない。郵便受けにも表札はない。

「そこで法務局へ行って、その部屋の登記を確認してみました。すると、関西のある会社の所有になっています。その名は、たしかに以前の取材時に入手した資料にあった、X組の関係会社だったのです。ますますホンモノとしか思えませんでした」

 正確に1週間後、男から電話があり、今度は池袋の喫茶店を指定してきた。ところが、約束の日時にその店へ行くと……、

「またもや早めに来て、大量に飲み食いしてるんですよ。今度は缶ビールまで飲んでました。ちょっと厚かましいなと思いましたが、なにしろタレコミ内容がホンモノっぽいので、がまんして、『マンションの話はほんとうみたいですね』といいました。『そうやろ。次は……』と、似たような“秘密基地”の存在を教えてくれました。それも調べてみると、たしかにX組関連の所有らしいのです」

 しかし、こんな“秘密基地”の場所ばかり教えてもらっても、それで記事になるものでもない。なにか人間ドラマに近いようなエピソードがなければ、週刊誌の記事にするのはとうてい無理だ。

「そこで3回目に会ったとき――もちろん、このときも、先に大量飲み食いしていましたが、『あなたであることはわからないようにカムフラージュしますから、X組東京進出の話に、あなた自身の逃亡記を交えたような記事にできませんかね』と相談してみました。すると男は『うん、それもええな……ところで、今日、寝床がなくて、深夜サウナに泊まりたいんやが、5000円、貸してくれへんか』というのです。このあたりから、どうも怪しい、しかしタレコミ情報は正確だし……と悩みましたが、次もカネを要求されたり、大量飲み食いがつづいたりするようなら、これを最後にしようと思い、5000円を渡しました」

 結局、男は、4回目の約束の場所にはあらわれず、それきり連絡は途絶えてしまったという。X組東京進出騒動とやらも、すくなくとも表立って発生した様子はなかった。

「実は、数年後、別の社の週刊誌記者と呑み屋で一緒になったとき、酒の肴にこの話をしたんですよ。すると『そいつ、X組ネタのタレコミ男でしょう。喫茶店に行くと、先に大食いしている。うちはホテル代で1万円とられましたよ』というので、びっくりしました。要するに、東京に1か月ほどいる間、あちこちのマスコミを訪ねては、食事や宿泊代をせびっていたサギだったのです。大金は無理だが、この程度の金額なら大丈夫だとわかっていたのでしょう。しかし、男が指摘したマンションは、たしかにX組系でした。だから、すべてがウソではなかったと、いまでも信じたいのですが……」

 これ以来、Y記者は、タレコミ電話を受けるたびに「喫茶店ではなく、駅の改札前でお会いするならいいですよ」というようになったという。

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