「多党化時代」突入の日本が“お手本”にすべき国がある 文書のボリュームは自維の20倍…歴史の反省が生んだ超慎重な合意形成

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政党の「乱立」は仕組みで防ぐ

 このように多党制の難しさもあるドイツだが、政党乱立の“抑制弁”は明確に設けている。

 ワイマール共和国時代の完全な比例代表制もまた少数政党の乱立による政治の停滞(ひいてはナチスの台頭)を招いたという反省から、現在のドイツでは選挙で、

・比例代表選挙で5%以上の得票を得た
・小選挙区選挙で計3議席以上を獲得した

 という2つの要件に当てはまらない政党は、議会で1議席も得られない仕組みになっているのだ。

 例えば前ショルツ政権で連立与党の一角であった自由民主党(FDP)すら、この仕組みにより総選挙で議席を全て失った。多党政治の中にあっても、ある程度民意の集約を図る機能が働いているのである。

まとめ 日本にとってお手本となり得ること

 決して「ドイツ政治の全て」がお手本になるわけではないと断っておきたい。一方で、ドイツ政治の仕組みは、日本の政治はどうあるべきか考える上で学べる点も多い。

 まずは「当たり前」を見直してみてはどうだろうか。

・仕組み上そもそも一党で過半数を占めづらい
・選挙後新政権発足までは数ヶ月かかる
・決め事は細部にわたって詳細に行う

 これらは全てドイツ政治においては「常識」である。他方でもちろん様々な意見の相違は発生するから、

・関係者が粘り強く一致点を探る
・多党化の行き過ぎは仕組みで防ぐ

 など、合意形成は工夫して行われている。

 そもそも合意形成とは、個々の関心(ミクロ目線)を元にした真摯な議論の中で、全体最適の重心(マクロ目線)がどこにあるかを探る作業である。裏を返せば、ある政策がスルスルとまかり通ったなら、それは誰かを泣かせる新たな政治の火種となり得るかもしれない。

 余談だが、ドイツ語学習者が覚える代表的な会話文の一つに

「どうか私に最後まで喋らせてください」

 という言葉がある。

 議論好きで相手の話を遮ることもいとわないドイツ人と付き合っていくための必修フレーズであり、ドイツでの活発な政策論争の様子もまた想像に難くないだろう。

 ドイツの高度な政治技術は、大切なことを私たちに教えてくれている。

坂本雅純(さかもと・まさずみ)
独立行政法人経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェロー。2017年、経済産業省に入省。地域経済分析システム(RESAS)普及やSDGsビジネス支援等に従事した後、2019年より貿易経済協力局貿易振興課にて、デジタルインフラの海外展開や第三国市場協力、サプライチェーン強靭化関連施策等に従事。2021年より関東経済産業局国際課にて、中堅・中小企業の海外展開支援や外国企業の対日直接投資促進、安全保障貿易管理関連を担当。2023年よりEY ストラテジー・アンド・コンサルティング(株)。2021年より官民で政策案の共創を行う非営利任意団体Policy makers lab 副代表を兼任。

デイリー新潮編集部

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