ドイツ人はポカーン 「日本人とドイツ人は似ている」なんて大ウソ 在住者が実感

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 日本人の中にはドイツ人に対して妙なシンパシーを持つ人は少なくない。「私たちはどこか似ている」と思っているようなのだ。

 かつての同盟国だったから、という理由ではないだろう。それならばイタリア人だってそう言われそうなものだが、「あの人、イタリア人みたい」と言われる際には、別の意味合いが生じることが多い。

 ドイツ人と聞いて浮かぶ「勤勉」「職人肌」「規則を守る」といったイメージが、どこか日本人に近い、というのが「似ている」と思う人の心にあるのだろう。

 ドイツ在住で、現地からブログなどを発信しているフリーライターの雨宮紫苑氏は、よく「ドイツ人と日本人って似てるんでしょ?」と言われることが多いという。移住前からそういう話を聞いており、雨宮氏も何となく「じゃあ暮らしやすいんだろうな」と思っていたそうだ。

 しかし、実際に住んでみたらまったくちがった。雨宮氏がドイツ生活をもとに書いた初めての著書『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』には、実体験をもとにした「いかにちがうか」に関する興味深いエピソードが紹介されている(以下、引用は同書より)。

規則は他人のためならず

 雨宮氏は、日本人がドイツ人に抱いている「規則を守るマジメな人」というイメージが、そもそもちょっとズレている、と指摘する。

「ドイツ人が規則を守るのは、(日本語的な)マジメさからではない。ドイツは規則を破った人にはトコトン厳しく、規則を守ることが絶対正義とされている国なのだ。

 以前住んでいた家のとなりにある小学校は、市民楽団の練習場でもあった。夜23時を過ぎても同じ曲をひたすら繰り返し練習していたり、日曜日でも活動していたりして、本当に辟易していた」

 そこで雨宮氏を含めた近所の住人(当然ドイツ人)は、「静かにしなくてはいけない休息の時間」に関する法律を調べ、時には通報し、時には直接文句を言いに行って、毎回やめてもらっていたという。

「相手がなんと言おうと、規則を味方につけたもの勝ちなのだ。
 ドイツではこういった小競り合いは日常茶飯事で、そのたびに『賃貸契約書を確認しよう』『これはこの法律違反』『証拠をそろえて窓口に行くぞ』となる。

 相手が規則を破っていれば、『おいこれを見ろ。ここにこう書いてあるだろう。君が悪いんだぞ』と言える。日本のように、『こちらも困ってるのでご理解いただけませんか』『すみませんがこうしていただけませんでしょうか』なんて下手に出る必要はない。規則を守っているのが正義なのだ。
 つまりドイツでは、自分が不利な立場にならないために規則を守るのであって、必ずしも『マジメだから』とは言えないのである」

再配達はしません

 したがって、日本式の「マジメさ」を期待するとえらい目に遭うこともある。たとえば公共交通機関は日本ほどの「マジメさ」を持たない。要は他の諸外国と同様、ルーズなのだ。

「バスや路面電車は、5分程度の遅延なら『定刻』という認識だ。バスなんて、遅延しすぎて次の便の方が先に来ることもある。ドアが壊れただの停電しただの、理由もわからず電車が線路に立ち往生することだって日常茶飯事。以前、終電が200分遅延と表示されていたにもかかわらず、15分後に来たこともあった」

 郵便配達のクオリティも高くない。ある日、雨宮氏宅のポストに不在票が入っていた。両親が冬服を送ってくれたのだ。再配達を依頼すると、「あしたかあさってに届ける」とのこと(これだけでもかなりアバウトだ)。

 2日間、自宅にこもって待っていたが届かない。再度連絡すると、どうやら配達担当者が忘れていたようだ。電話に出た担当者は「わたしは連絡したのに向こうがやっていないのよ」という態度。

 結局、何度も連絡を取り、ようやく受け取れたのは最初の配達から10日後のことだった。しかも、よほど大きなものでない限り、そもそも再配達はしてもらえないのだという。

「適当にガソリンスタンドなどに配達されるので、後日自分で取りに行かなくてはならない。ガソリンスタンドまでバスを乗り継いで延々と歩いて1時間以上かけてIKEAの棚を取りに行き、タクシーで帰ったなんて経験もある。

 ドイツはしっかりしているイメージかもしれないが、とんでもない。このように交通機関や配達などは、なかなか堂々と雑である。

 それでもなぜ問題にならないかと言えば、怒ったからといって電車が早く来るわけでも、荷物が早く届くわけでもないからだ。待っていればいつか来る。そう思わないとやっていけないし、実際そうやって生活がまわっている」

 宅配便の遅配程度でチェーンソウを振り回すような輩までもが出てくる日本では考えられないことが珍しくないのだ。

 改めて、著者の雨宮氏に話を聞いてみた。

「今回、本を書いたきっかけの一つが、『日本人とドイツ人って似てるよね?』という言葉を日本ではやたらと聞くのに、ドイツに来たら全然似てなくてびっくりしたからでした。実際、ドイツ人に『似てるよね』って言うと、ポカーンとされるか、『戦争の時のこと?』と返されるのがオチなんです。

 日本ではドイツにシンパシーを感じる人が多くて、『ドイツから働き方や教育制度を見習うべき!』という声をよく聞きました。でもドイツにはドイツの問題があって、日本には日本の文化や価値観がある。それを無視して優劣を語るのって、ちょっとちがう気がします。それぞれのちがうところを見て、なぜそうなっているのかを考えてはじめて見習ったほうがいいことや、下手に見習うと大変なことが見えてくると思うんです。どっちが優れているとかそういうことを言いたい人もいるようですけど、そんな簡単な話じゃなくて、比べてみたらどっちもどっちかなあ、というのがわたしの結論です」

デイリー新潮編集部

2018年8月20日掲載

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