『青い壺』が令和の大ヒット作に 再び注目を集める「有吉佐和子」の舞台「華岡青洲の妻」が、松竹と文学座で連続上演

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有吉作品の魅力とは

 文春文庫の『青い壺』が、売れに売れている。すでに没後40年以上になる昭和の作家、有吉佐和子(1931~1984)が、1977年に刊行した連作短編集である。

 一時、品切れだったが、2011年に文庫新装版として復刊。以後、ジワジワと売れつづけていた。さらに近年、原田ひ香さんの推薦コメントのオビが付いてからは、56万部を達成。本年上半期のトーハン・日販・オリコンの文庫ランキングすべてで1位となる「文庫3冠」を獲得した。旧版とあわせると80万部を突破しているという。

 有吉文学の魅力は、どこにあるのか。ベテランの文芸編集者に解説してもらった。

「純文学、社会問題、エンタメ、通俗、フェミニズムといった、本来同居しにくい様々な要素が、何の違和感もなくひとつの作品にまとまっている点にあります。最近流行のコトバを借りれば、〈シナジー(相乗効果)〉の先駆けみたいな小説です」

 そして、いま話題の『青い壺』は……

「全13話で、月刊『文藝春秋』1976年1月号から連載されました。さる陶芸家が作った〈青い壺〉が、売られたり盗まれたりしながら、さまざまな人のもとをわたり歩いていく。そのたびに、多種多様な人間ドラマが展開する。次の話では、どこにどんなふうに〈青い壺〉が登場するのか……まさに熟練工による珠玉の逸品。1話あたりも適度に短くて、読みだしたら止まらないエンタメ短編集です」

 有吉作品は、社会問題に対する先見性が、驚くほど早いことでも有名だった。

「『恍惚の人』で老人介護、『複合汚染』で環境問題、『不信のとき』で不倫ブーム、『非色』で人種差別……。すべて、いまのような大問題になる以前に取り上げています。文化大革命後、週刊新潮で『有吉佐和子の中国レポート』のようなノンフィクションも連載している。芥川賞にも直木賞にも無縁でしたが、まさに〈ひとり総合雑誌〉とでもいうべき幅の広さでした」

 そんな有吉文学の、もうひとつの魅力が〈演劇〉〈舞台〉〈伝統芸能〉にまつわる作品群である。

「そもそも有吉さんは、幼少時から歌舞伎ファンで、若いころは、雑誌『演劇界』のライターでした。一時は、日本舞踏の家元、初代吾妻徳穂(五代目中村富十郎の母)の秘書をつとめていたほどです。だから彼女の作品には、伝統芸能を題材にしたものが多くあります。芥川賞候補作『地唄』、直木賞候補作『白扇抄』(旧題『白い扇』)、ほかにも文楽が題材の『一の糸』『人形浄瑠璃』、日舞は『連舞』『乱舞』、花柳界は『香華』『芝桜』、芸能界は『開幕ベルは華やかに』、歌舞伎の創始は『出雲の阿国』……、いま話題の『国宝』の先駆けのような作品ばかりです」

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