『青い壺』が令和の大ヒット作に 再び注目を集める「有吉佐和子」の舞台「華岡青洲の妻」が、松竹と文学座で連続上演
開幕3日前に代役が決定した、小野洋子
姑・於継役は、杉村春子の没後、文学座では、しばらく吉野由志子が演じていた。今回は、小野洋子が初役で演じる。
「実は、今回の松竹版、7月の京都・南座公演では、於継役の波乃久里子が急病で降板。急きょ、開幕3日前に代役に決まったのが、文学座の小野洋子だったのです」(演劇ジャーナリスト)
もちろん、文学座公演は、まだ稽古もはじまっていないから、小野洋子は3日でセリフを入れて初日に臨んだ。ひとりの俳優が、おなじ作品でおなじ主役級の役を、商業演劇と新劇でつづけて演じる、珍しいケースとなった。その公演を観たという鵜山仁さんによれば、
「ただでさえ時間がないうえ、杉村春子さんの当たり役を引き継ぐわけですから、二重三重のプレッシャーがあったと思うんですよ。それにしては、意外と、ヌケヌケとやってましたね(笑)。もともと、舞台度胸のあるひとですが、この芝居は、とにかく紀州方言がむずかしい。その点も、見事にこなしていました」
実は、南座のあと、7月末に、福岡・久留米公演が3ステージあった。こちらの於継は、おなじ文学座の名越志保が代役に立ち、これまた見事にこなしたという。老舗劇団ならではのパワーである。ちなみに波乃久里子は、8月の新橋演舞場公演で復帰したが、終盤でふたたび降板。2ステージが休演となった。
「波乃久里子は南座公演も急性気管支炎で休演しましたが、たしかに復帰後も、少々、声がかすれているようでした。79歳の高齢なので、かなり無理を押して舞台に立ったのではないでしょうか」(演劇ジャーナリスト)
そこで、最後の3ステージだけ、久留米公演で代役に立った文学座の名越志保が、再登板した。本来、短い出番だが、乳がんの老女・お勘役で出演していたので、スケジュール的に問題はなかった。しかし、いくら以前に演じているといっても、公演再開までに1日半しかなかったのだ。
「この即応ぶりは、さすがに文学座のベテランだと思いました。そもそも名越志保は58歳なので、嫁役の大竹しのぶより、10歳若い。しかも柔らかい顔立ちで、波乃久里子とはタイプがちがう。なのに、見事に気の強い姑を演じて、大竹と“名勝負”を演じていました。千穐楽のカーテンコールでも、ひときわ大きな拍手を浴びていましね」
文学座の2人の女優に助けられて、松竹は、文学座に頭が上がらないのではないだろうか。そして、いよいよ、次は、その文学座公演となるわけだが……。
「今度の文学座公演では、特に於継=小野洋子さんをフィーチャーするような演出にはしません」
と、演出の鵜山仁氏が語る。
「この作品は、“生きる”ことにまつわる群像劇なんです。医学がいまほど進歩していない時代に、情報も物資も乏しい地方で、いかにして“生きのびる”ために、ひとびとが苦労したかを描いている。嫁姑の争いも見どころですが、ぜひ、背後にある壮大なスケールを感じ取っていただけたらと思います」
それこそが、有吉佐和子が伝えたかったことにちがいない。
[4/4ページ]

