『青い壺』が令和の大ヒット作に 再び注目を集める「有吉佐和子」の舞台「華岡青洲の妻」が、松竹と文学座で連続上演

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世界初、全身麻酔で乳がんを手術した江戸時代の医師

 そんな作家だけに、実際に〈戯曲〉も多く書いている。人形浄瑠璃「雪狐々姿湖」(ゆきはこんこんすがたのみずうみ/原作:高見順)、NHKテレビ・ドラマ「石の庭」(1957年)、ミュージカル「山彦ものがたり」(1975年)、帝国劇場で上演された「日本人萬歳!」(1977年)……。

「しかし、やはり“有吉戯曲”といえば、自作短編『亀遊の死』をもとにした『ふるあめりかに袖はぬらさじ』、そして、代表作の小説を自ら戯曲化した『華岡青洲の妻』の2作に尽きるでしょう。この2作は、ともに日本演劇史にのこる名作と呼んでも過言ではありません」(演劇ジャーナリスト)

 その「華岡青洲の妻」が、今年、立てつづけに、2つの舞台となって上演される。まずひとつは、松竹の製作で、京都・南座や新橋演舞場などで上演された(8月17日まで)。そして10月26日からは、文学座が紀伊國屋サザンシアターで上演する。

「おなじ戯曲が、商業演劇と新劇とで、あまり間を置かずに上演されるのは、珍しいケースだと思います」

 では、小説『華岡青洲の妻』とは、どういう作品なのか。

「文芸誌『新潮』1966年11月号に一挙掲載され、翌年2月に単行本化された中編小説です。江戸時代、有吉さんの故郷・和歌山に実在した医師・華岡青洲の一家がモデルです。青洲は、世界で初めて、全身麻酔薬で乳がんなどの外科手術をおこなった医師ですが、この小説が出るまで、一般にはまったく知られていませんでした」

 小説は、江戸時代の医学界をわかりやすく描写しながら、いかにも“有吉文学”らしい味わいを醸し出す。

「全身麻酔薬の開発は、実用まで時間がかかりました。最初は犬や猫を実験台にしていたのですが、やがて人体実験の段階になる。すると、青洲の母と嫁が、たがいに実験台を名乗り出て、いわゆる“嫁姑の争い”が展開するのです。そのスリリングな筆運びとド迫力は、さすがに有吉佐和子ならではで、読み応え十分です」

 互いに青洲を“独占”しようと争う嫁・姑の姿は、有吉佐和子ならではのフィクションだが、そこに、貧しくとも誇り高く生き抜こうとする女性たちの姿や、当時の医学界にあった迷信や誤解を乗り越えようと奮闘する医師たちの姿が加わり、重層的な厚みをもった小説となっている。いまでも新潮文庫で読まれつづけているロングセラーである。

 この小説が有吉佐和子自身の手で戯曲となり、1967年、東宝製作の芸術座公演で初演された。

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