「自分の肩の肉を口に…」 世代を超えて見てほしい戦争映画の傑作10選

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自分の肩の肉を口に

 そして、現在。「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」(2023)のように、これまで何度も描かれてきた特攻隊の物語を、新たな切り口で描くことで、若い世代が劇場につめかける現象も起きている。

 一方、塚本晋也監督が再映画化した「野火」(2015)のように、戦場の狂気と飢餓をゼロに近い製作費で再現した秀作も生まれている。爆風で顔や手が吹き飛んだ兵隊が、むき出しになった自分の肩の肉を口に入れる。ここまで生々しく描く必要があるのかという声もあるが、〈敗者は映像を持たない〉からには、こうした映画が、戦争を後世に伝えていくのだ。

「二百三高地」がヒットした後、当時の東映社長だった岡田茂は戦争映画について問われて「ヒットしたときの時代風潮、世の中の流れがどうであったか、それがむしろ重大な課題」(「映画ジャーナル」1980年6月号)と答えている。今年公開された戦争映画――「木の上の軍隊」、「長崎―閃光の影で―」、「雪風 YUKIKAZE」などが、どう観客に受け止められるか。国民の政治意識、戦争への認識に変化が訪れつつある今、戦争映画の在り方も変わっていくのではないだろうか。

吉田伊知郎(映画評論家) 1978年生まれ。兵庫県出身。大阪芸術大学映像学科卒。「キネマ旬報」「映画芸術」「映画秘宝」など多くの雑誌に寄稿。著書に『映画評論・入門! 観る、読む、書く』、共著に『映画「東京オリンピック」1964』『映画監督、北野武。』など。

週刊新潮 2025年8月14・21日号掲載

特別読物「『きけ、わだつみの声』から今夏公開作品まで 銀幕が映し出した戦争映画80年史」より

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