「自分の肩の肉を口に…」 世代を超えて見てほしい戦争映画の傑作10選
一大ジャンルとして確立されている戦争映画。が、作品名を知ってはいても見たことがないという方は少なくあるまい。戦争映画は戦後日本の歩みと密接に交わりながら、その時代特有の背景を色濃く反映させてきた。80年におよぶ歴史を、映画評論家・吉田伊知郎が案内する。
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敗戦から80年目の夏を迎える。戦争を体験した世代も少なくなりつつある今、戦争の姿を伝える役目を果たすのが、映画だろう。別表に挙げたのは、〈昭和100年〉となる今年の夏、世代を超えて見てほしい戦争映画たちだ。戦争で何があったのか。映画は記録映像では目にできないものを映し出すはずだ。
実際、第2次世界大戦において、わが国が撮影した映像は限定されている。真珠湾攻撃、マレー作戦、蘭印作戦などは今も多くの映像が残されているが、1942(昭和17)年6月のミッドウェー海戦以降、日本側の映像は急速に乏しくなっていく。
敗者は映像を持たない
映画監督の大島渚は、TVドキュメンタリー「大東亜戦争」(1968)において、戦時中の記録映像のみで1本の作品に仕上げようとしたところ、この問題に直面した。そして、〈敗者は映像を持たない〉というテーゼを導き出すことになる。
事実、インパール作戦も、サイパン島陥落も、沖縄戦も、大半はアメリカ側の映像を使わねばならなかった。大島をさらに困惑させたのは、敗戦の映像が存在しないことだった。宮城(皇居)前でひれ伏す人々の映像はあるが、大島が使えると思えた象徴的なカットは、イガグリ頭で眼鏡をかけた青年が、宮城に向けて手をつくカットだけだった。「なぜ誰ひとりとして、玉音放送を録音する天皇の姿をせめて写真になりと撮っておこうとしなかったのか」(『体験的戦後映像論』朝日新聞出版)と、大島は嘆く。
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