「自分の肩の肉を口に…」 世代を超えて見てほしい戦争映画の傑作10選
日本の戦争映画が描いてこなかった〈敵〉
そうした風潮に異議申し立てを行ったのが、大島渚だった。日本の戦争映画が敵を描かないことに不満を感じていた大島は、1978年末に書店で偶然手にしたL・ヴァン・デル・ポストの「影の獄にて」(思索社)の腰巻きに書かれた「ジャワ日本軍捕虜収容所での日本軍人ハラと英国軍人ローレンスの逆説的な出会い、戦友セリエと弟との秘話があかす人間の裏切りと愛」という文言に引かれる。同作を原作に作られたのが「戦場のメリークリスマス」(1983)だった。坂本龍一、ビートたけし、デヴィッド・ボウイという異色の顔合わせが話題を呼んだこの作品は、日本の戦争映画が描くことがなかった〈敵〉を、対等な人間同士として初めて描いた。
70年を経て、新たな視点を
1980年代は、従来の映画会社では作られなかった戦争映画が登場した。原一男監督によるドキュメンタリー「ゆきゆきて、神軍」(1987)は、ニューギニアで戦った元日本兵・奥崎謙三の暴力も辞さない行動によって、所属部隊で敗戦直後に起きた事件が白日の下にさらされる。
野坂昭如の原作を高畑勲監督が精緻なアニメーションに昇華させた「火垂るの墓」(1988)は、戦争で孤児となった兄妹の生活をリアリズムあふれる描写で映し出し、幼い妹が衰弱していく姿を生々しく描いた。
この時期、巨匠監督たちも戦争にこだわり続けていた。今井正は、自作を再映画化した「ひめゆりの塔」(1982)を撮り、東京大空襲を描いた「戦争と青春」(1991)が遺作になった。小林正樹は東宝の「8.15シリーズ」で製作予定だった企画をドキュメンタリー「東京裁判」(1983)で実現させた。「夢」(1990)で陸軍将校が戦死させた部下たちの亡霊と遭遇する挿話を撮った黒澤明は、「八月の狂詩曲(ラプソディー)」(1991)では、原爆の記憶と向き合った。
竹山道雄の小説を映画化した「ビルマの竪琴」(1956)を撮った市川崑は、30年後にカラーで同作のリメイクを実現させた。今夏発売された1956(昭和31)年版「『ビルマの竪琴 総集篇』4Kデジタル復元版 Ultra HD Blu-ray」には、市川の未発表原稿が収録された。そこでは劇中の兵隊たちはインパール作戦の敗残兵で、実際は悲惨な状況にあったはずだが、そう表現しなかった理由が明かされており、70年を経て、新たな視点を観客に投げかけてくる。
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