「1日3万5000回で脳をむしばむ…」 スマホ時代の「決断疲れ」から逃れる方法 「ジョブズの行動にヒントが」

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休憩の「テクニック」

 決断疲れした脳を癒やすには、当然、疲弊した脳を休めることが必要になります。ところが、働き方改革が進んでいるとはいえ、まだまだ働き過ぎの感がある日本人は、ややもすると「リラックス休憩=悪」と受け取りがちです。しかし、ニュージーランド・カンタベリー大学のヘルトンとラッセルノの実験で、休憩の効果は実証されています。

 モニター上の楕円の位置を認識し続けてもらうというテストを、テストの合間に約2分の休憩をとる群(1)、数字や文字の位置の認識といった別の課題をテストの間に挟む群(2)、休憩なしで楕円の位置認識のテストをずっと続ける群(3)の3グループに分けて行った結果(1)の成績が最も良く(3)が最も悪かった。やはり、「あえて休憩をとる勇気」を持つことはとても重要なのです。

 ただし、休憩にもちょっとしたテクニックが必要です。業務から解放された束の間の昼休みに、スマホをいじって“息抜き”をする。今や当たり前の光景となっていますが、韓国・亜洲大学校のリーと韓国行動科学研究院のキムの研究では、ランチタイムにスマホでインターネットやSNSなどを利用すると、午後になって精神的な疲労を感じやすくなることが分かっています。要は息抜きになっていない。休憩する時は、目をつぶるなどして“しっかりボーッとする”ことが大切なのです。

足るを知る

 最後に、先ほど少し触れた幸福度の話をしたいと思います。

「マキシマイザー」と「サティスファイサー」という概念があります。可能な限り多くの選択肢を検討し、その中から最良の選択を追求する人がマキシマイザーで、十分に良いと思える選択肢が見つかった時点で満足する人がサティスファイサーです。

 SNS全盛時代にしてAIで何でも調べられる現代において、情報をとことん吟味するマキシマイザーのほうが「正解」のような気がしてしまいますが、アメリカ・スワースモア大学のシュワルツによると、一般的にサティスファイサーのほうが幸福度は高いそうです。つまり、「足るを知る」ことが幸福の秘訣(ひけつ)といえるのです。

 いくら情報を集め、選択の幅を広げたところで、正しい決断ができるわけでも、幸せになれるわけでもない。それどころか決断疲れになり、「燃えられない症候群」に陥ってしまう……。したがって、選択肢を完璧にそろえるという理想を追い求め過ぎてはいけない。童話が示唆しているように、「青い鳥」を探してはいけないのです。

堀田秀吾(ほったしゅうご)
明治大学法学部教授。1968年生まれ。言語学博士。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学修士課程修了。言語学、法学、社会心理学、脳科学などのさまざまな学問分野を融合した研究を展開。最新刊『決めることに疲れない 最新科学が教える「決断疲れ」をなくす習慣』(新潮社)を4月16日出版した。

週刊新潮 2025年4月24日号掲載

特別読物「1日3万5000回で脳を蝕む…SNS時代の『決断疲れ』対処法」より

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