「1日3万5000回で脳をむしばむ…」 スマホ時代の「決断疲れ」から逃れる方法 「ジョブズの行動にヒントが」

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「情報の多さ」は悪にもなる

 それでは、どうすれば決断疲れを防ぐことができるのでしょうか。答えは単純。情報が多いのであれば減らせばいいのです。

 そんなことはできないし、すべきではない。多様性の時代なのだから選択肢も多いに越したことはなく、情報の多さこそが「善」なのである――そう考えている人に向けて、「情報の多さ=悪」になることもあるという実験結果を紹介しましょう。

 アメリカ・スタンフォード大学のレヴァヴらは、新車の購入を検討している人を2群に分けて、56種類の内装色、26種類の外装色、25種類のエンジンとギアボックスの組み合わせから始まり、4種類の内装スタイル、4種類の変速ノブなどなど、カスタマイズの選択をしてもらいました。一方の群には56種類と選択肢の多いほうから、もう一方の群には選択肢の少ないほうから順に選ばせた。すると、前者は途中から自分で選ぶことをやめ、早い段階でデフォルト(標準設定)でいいと妥協する人が少なくなかった。これに対し後者は、途中で諦めることなく自分で選択し続けたそうです。選択肢の多さが決断疲れを招き、思考の停止、あるいは思考の放棄を引き起こした好例です。

スティーブ・ジョブズも「選択」を減らしていた

 また、オランダ・アムステルダム大学の心理学者ダイクスターハウスらは、4台の中古車の中に1台だけお買い得な「当たり」の車を用意し、被験者にそれぞれの車のスペックを説明した上で、どの車を選ぶかという実験を行いました。この実験でも被験者は2群に分けられ、一方は集中して選択できる環境にあるグループで、もう一方はパズルなどをやらされながら選択するグループ。説明の量を増やした場合、後者のほうが「当たり」の車を選択する確率が高くなったそうです。つまり、選択肢をよく吟味できる環境にある群のほうが誤った選択をする確率が高かったのです。これも、情報が多く頭に入っていればいいわけではないということを物語っています。

 では、どうやって過度な情報量を制限し、決断疲れをもたらす選択の機会を減らせばいいのか。キーワードは「マイルール化」「ルーティン化」です。

 アップルの創業者の一人であるスティーブ・ジョブズは毎朝、同じ服、同じ靴で出かけると決めていました。これは、自分にとって優先度の低いことに「選択する」という時間・労力を割かず、その分の脳のリソースを、より重要な選択のために回すことを目的としていたといわれています。過剰負荷環境に置かれている今、決断疲れに至る「選択の回数」を減らすヒントが、このジョブズの行動には隠されています。

 私自身、メニューが豊富な飲食店に入った場合、「シェフのおすすめ」か「看板メニュー」しか頼まないと決めています。それはなぜか。マイルールを作って決断疲れを防ぐのと同時に、後述しますが、情報に振り回されて決めるのではなく、自らの意志によって決断することの方が結局は幸福度が高まるとの報告があるからです。

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