「代理出産」はこんなに危ない! 日本人女性が「供給者」になる新たな貧困ビジネス

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経費のはずが実質的に“報酬”に

 例えば英国は、商業化を防ぎつつ必要経費のみ代理母に支払われるという体裁をとっていますが、この経費が徐々にかさみ、実質的には代理母の“報酬”になっている。19年の相場の中央値は、約200万円とされています。さらに無償で厳しい条件付きながら、ひとたび代理出産が可能になると、その需要が社会で喚起され、条件に合致しない人たちが外国の商業代理出産を用いるようになる。こういう現象が現在、英国で起きているのです。

 EU加盟国ではギリシャのみ無償に限って代理出産が合法ですが、現地のインバウンド産業と化しています。外国人依頼者のためギリシャ人女性が代理母となっており、支払われる必要経費は2万ユーロ(290万円)ほどです。米国は先述の通りハイエンド市場で、代理母も昨今の為替相場に従えば円換算にして440万円以上を手にできます。ウクライナだとおよそ250万円。一方、日本の非正規雇用女性の平均年収は20年の民間給与実態調査では153.2万円であり、代理出産が貧困ビジネスとなり得る危険が大いにあることがお分かりいただけると思います。妊娠経験のある貧困女性として真っ先に挙げられるのはシングルマザーです。あるいは貧困世帯で夫から頼まれ、妻が代理母を不承不承引き受けるといったケースも生じるでしょう。

代理出産でうまみを得る人間が推進

 インドでは前述の通り、外国人の利用が禁じられていますが、その反面、家族からの圧力、とりわけ義理の兄弟のために代理母になる事例が多く報告されるようになりました。まさしく日本のフェミニストらが80年代から00年代前半にかけて主張していた「女性の権利侵害」が生じているわけです。

 代理出産とは基本的に、それによってうまみを得る弁護士や医師、あっせん業者らが推進しているものです。これに巷のインフルエンサーなどは「弁護士や医師が言うのだから正しいのだろう」と、深く考えずに賛同しているように思えてなりません。「人類への福音」といった空疎な文言に踊らされ、フェミニストからリベラルまで入り乱れる“女性同士の戦い”といった現象に矮小化されることなく、誰もが身近な問題と認識してほしいものです。

柳原良江(やなぎはらよしえ)
東京電機大学理工学部教授。2003年早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。専門は生命倫理学。主な業績に『こわれた絆──代理母は語る』(監訳)など。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

特別読物「『人類への複音』という美名の裏で…『代理出産』はこんなに危ない」より

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