じつは意外に多いヤクザの自殺 2つの実例から見えてくる根本的な原因とは

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狙われやすい「お人好し」

 実は、Aさんの実父であった組長が亡くなった時、Aさんのもとに、組長の隠し資産の2億円が密かに相続されたという噂が巷に流れた。また、組長が亡くなってしばらくした後、200坪以上あった組長の屋敷が区画整理事業の対象地となって買収されたことから、Aさんの元にはかなりの金額が転がり込んでいた。

 こうして懐具合に余裕があったAさんは、目前に現れた人物の投資話にのめり込んで、彼に言われるがまま、2000万円を渡した。その途端、彼は音信不通となってしまった。結果としてAさんは2000万円を失った。

 要するに、これは詐欺だった。先代の息子として知られており、しかも現役の暴力団幹部であるAさんに対して詐欺を働くなんて、仕返しされることを考えたら尋常な沙汰ではないと思う人も多いだろう。

 が、Aさんは、とどのつまり、坊ちゃん生活が染みついているところもあって、どこかお人好しな性分。極悪非道な暴力団員というよりは、愛嬌深いヤクザだったので、詐欺師から言わせれば、Aさんは「狙いやすいお人好し」だった。

 こうしてAさんは2000万円を失ったわけだが、音信不通となった彼の行方をやみくもに探すこともなく、「父親に恩返しをしたいと言われたら払うしかないだろう」と言って、潔くすべてを水に流した。

“先代案件”

 それからしばらくするとAさんのもとに、「先代の恩を返したい」だけでなく、「先代と共同事業をやる話になっていたから息子さんに引き継いで欲しい」、「先代に貸した金を返して欲しい」、「先代の愛人の処理をしたい」等々、先代がらみの話が次々と舞い込むようになった。Aさんはこれらのすべてを「先代案件」として、その対応に当たるようになった。

 このすべてが詐欺だったわけではないが、ほとんどの案件が、相手に対してAさんが金銭を支払う話ばかりで、前途した件と同じように現金だけを騙し取られてしまうケースも多く、気が付いた頃にはAさんの手元の現金はまったくなくなっていた。そしてAさんは、極度の人間不信に陥るようになった。

「暴力団員には人権がない」と言えるほどの理不尽な時代である。先代が存命の時代とは違って、今となってはAさんも暴力団員としてそれなりに生きる苦労を重ねている。そんな折りにAさんは、「先代案件」によって、かなりの人々から詐欺を働かれ、騙され続けた。金銭的被害だけでなく、その精神的ストレスはとても大きかっただろう。

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