じつは意外に多いヤクザの自殺 2つの実例から見えてくる根本的な原因とは

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

病んだ精神

 暴力団員であるが故に、それが明らかに詐欺であると判断できても、警察に相談に行くわけでもなく、周囲の友人たちから、さまざまな対抗策をアドバイスされても「父親の名前を出してくる以上、断るわけにはいかない」として、Aさんは、目前に現れたさまざまな人物たちに現金を渡し続けた。

 いっそのこと、暴力団員を辞めようと思ったこともあったそうだが、辞めたとしても、Aさんに「先代案件」は一生付いて回る。だったら暴力団員のままでいた方がまだ何かと融通も利きやすい。

 それはつまり、Aさんは暴力団員というより、こんな父親を親にもった息子という、ひとりの人間として背負った運命に縛られ続けることを意味していた。

 Aさんの手元に現金はもうなかったが、「組長の隠し資産の2億円を密かに相続したらしい」という噂だけはまだ蔓延(はびこ)っていたので、Aさんのところには「先代案件」が依然として舞い込んで来た。やがてAさんは知人から借金までして「先代案件」に対応するようになっていた。この頃はAさん、もう何かしら精神を病んでいたのかもしれなかった。

組長稼業も楽じゃない

 そしてAさんは、ある日、自宅で首を吊って死んでいるのを発見された。警察は、これを自殺として処理した。

 Aさんは某直系団体の組長の実子だった。言い方を換えれば、Aさんはその業界ではそれなりに立場のある組長の息子だった。そしてAさんは、実子であるが故に、組長稼業も楽ではないということを熟知していた。

 先代時代は経済ヤクザの全盛期だったとはいえ、組長も水商売のような浮き草稼業、たとえ高級車を乗り回していようとも、実はその日のガソリン代の工面に苦労する日だってある。高級な背広を着ていても、クリーニング代がない日だってある。

 そんな赤裸々な苦労を知っていたAさんだったからこそ、どうしても「先代案件」から逃げるわけにはいかなかった。Aさんは、父親が作った生前のツケを払うことが、この家に生まれた自分の責務であるとも考えていた。そんな生真面目さがAさんの精神をむしばみ、彼を自殺に追い込んでしまったのかもしれない。

次ページ:行き場がなかった

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[3/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。