「地球を守ろう」のウソ 環境保護は人間の居住可能地域を増やすため(古市憲寿)

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 フランスで、短距離の国内線フライトを禁止する法案が成立しそうだ。具体的な基準は、電車を使って2時間半以内で到着できる区間。正式に法案が可決されれば、パリからボルドー、パリからリヨンなどは飛行機で行けなくなる。

 二酸化炭素排出量の削減を掲げる気候変動対策法案の一部であるというが、この決定にも納得できない環境活動家がいるようだ。彼らが求めていたのは、電車で4時間の範囲における国内便は禁止せよというもの。

 日本で言えば、東京―大阪便や富山便が2時間半法案で、広島便、青森や秋田便などが4時間法案でアウトとなる。特に東京と関西圏の航空便が禁止されたら、経済界に大きな影響を与えるだろう。

 先進国の間で環境問題への注目が集まっている。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリは国際的な有名人になったし、日本でも2020年7月からレジ袋の有料化が義務づけられた。

 もっともプラスチックゴミの総量におけるレジ袋の占める割合は1.7%に過ぎない。また海洋プラスチックゴミの排出が多いのはインドネシアなどの東南アジア諸国や中国だ。日本はリサイクルや焼却処理が適切に実施されている。国際的な視野で考えるならば、日本中の人々が日々、イラッとしているレジ袋有料化などではなく、東南アジアへの技術支援を進めたほうが、よっぽど意味がある。

 ところで環境に関する議論では、しばしば「地球を守ろう」とか「地球が危ない」といったフレーズが使用されることがある。

 地球を擬人化して意識を高めたいのかもしれないが、嘘もいいところだと思う。

 地球は人間ごときに守れるような代物ではない。そもそも現在の人類の技術では、地球を破壊することは不可能だ。世界中の核爆弾を使えば、都市の破壊や、人類を激減させることはできるだろうが、地球そのものは壊れない。

 環境保護は地球のためではなく、人類のための活動なのだ。気候変動や海面上昇によって居住困難地域が増えて困る、という話である。地球温暖化の危機を訴えるパンフレットなどでは、とってつけたようにホッキョクグマなど生物種の絶滅にも触れられているが、あくまでも本題は人類だ。

 その人類はいつまで生き延びられるのか。長期的視点に立てば、再び地球に氷河期が訪れるのは確実だし、これまで5回発生している生命の大量絶滅イベントも繰り返されるだろう。隕石衝突や火山噴火などによって、大半の生物種が絶滅する可能性は大いにあり得る。

 さらに太陽の膨張によって、約10億年後に地上は干上がり、この前後で地球生命は絶滅してしまう可能性が高い。そして約120億年後には完全に地球は太陽に飲み込まれてしまうという。

 本当に地球を守りたいなら太陽の膨張を食い止める必要があるが、それよりも遥か前に人類は絶滅しているだろう。環境問題に熱を上げるのはいいが、それは「自分たちのため」というのを忘れずにいた方がいい。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2021年5月6・13日号掲載

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