一度人を襲ったクマ・人を食べたクマは、次に人を見た時に必ず襲いかかってくる

国内 2019年8月16日掲載

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 北海道札幌市の住宅街にヒグマが出没し、住民を恐怖に陥れた(今月14日に射殺)。国内最大の猛獣「クマ」とは、どんな動物なのか? そして知られざる「クマ撃ち」の世界とは? 昨日に引き続き、北海道旭川市在住、「クマ撃ち」歴38年のベテラン猟師・Hさんのインタビューをお届けする。

 前編はこちら → ヒグマに頭をかじられアゴも半分失い死にかけた猟師が、それでも「クマ撃ち」をやめない理由

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音にも敏感だけど、臭いにはもっと敏感

――「クマ撃ち」をすることに、何かしら思い入れのようなものがあるんですか?

H:思い入れとか、そういうのはないですね。しいて言うなら、必ず仕留められると思うから。そうでないと撃てません。打ち損ねたら、山の上から下に一気に走られます。だから「クマ撃ち」は、必ず上から下に追っていかないと危ないんですよ。

――「クマ撃ち」ならではの難しさはありますか?

H:「臭い」ですね。クマは音にも敏感だけど、臭いにはもっと敏感なんですよ。山の中で風が回ってるようなところに人が入ると、その臭いで気付いて逃げられてしまいます。頭もいいし、耳もいいし、鼻もいい。何か気配がおかしいなって思ったら、立ち上がってあちこち見て、鼻を空に向けて臭いをかいだり、いろんなことしますね。それで何かおかしいなと思うと、すぐに逃げる。だから「クマ撃ち」はすごく難しいですね。

――今まで何頭くらい仕留めていますか?

H:30頭くらいかな。僕は駆除で獲ることがなく、ほとんどが狩猟なので、それほど多くはありません。昭和の時代は有害鳥獣駆除として、クマが繁殖する春に「春クマ駆除」というのをやっていたんですが、平成になってそれが廃止になったんですよね。今は農産物被害があった時にのみに駆除するので。以前はクマの頭数自体も減ってきていたので。でも最近は、いくからやりだしていますけどね。

――ご実感として、クマの数は減っていますか、増えていますか?

H:最近は増えてきていますね。春クマの駆除をしないので、生まれた子グマが育っていますから。駆除もそれでやりだしているんだと思います。10年くらい前から北海道各地で、農家の食害が結構出てるんですが、危ないこととか、農家の要請がない限り、駆除しないんですよね。ただ、クマが市街地に出てきたというだけでは、やらないんです。

――札幌の住宅地に連日ヒグマが出ている(今月14日に射殺)というニュースがあったばかりですし、関東でもそうしたニュースを耳にします。

H:旭川市内でも、畑にクマが出るようになっていますね。まあもとはといえばクマの住むエリアだったわけで、そこに人間が家を建てたためにクマが奥に追いやられたっていうだけなんですよね。野幌とか恵庭とか札幌市内とか、それなりに駆除もやっていると思いますが、山にも増えているし、里に下りてくるクマも増えていると思います。

クマ肉の気になるお味は?

――狩猟の装備はどんなものがあるのですか?

H:特別なものはありませんよ。山に入るときは、リュックサックに、ロープと、大きいビニール袋を10枚くらい。あとペットシートの一番大きいサイズ、60cm×90cmのやつを、9枚くらい持って歩いていますね。シカなんかを獲った後、解体して肉にして持って帰るときに、これに包むんだよね。

――ちなみにクマのお肉って、どんな味なんでしょうか?

H:何と表現すればいいんでしょうかね……いわゆる売られている肉とは全然味が違います、やっぱりちょっと獣の匂いはします。肉は赤身なんですが、秋口になると脂がのってきてなかなか旨いです。臭いんじゃないかと思われがちですけれど、上手に解体すれば臭いは気になりません。解体が下手な人がやると、クマの身体の外側にある体臭のようなものが肉についてしまったり、血抜きが中途半端になるので、臭みがでてしまうんですよね。

 肉はちょっと硬めですね。特に大きいクマだと筋肉質なんで、そのまま焼いて食べるってことはしませんね。圧力鍋みたいなもので一度柔らかくして、それから鍋で甘辛く煮込んですき焼きみたいにして食べます。

――ライフルはどんなものを使っているんですか?

H:ライフルは3丁持っていますが、主に使っているのは、単身ボルト式の「サコー M85 フィンライト30-06」というフィンランドの銃です。ボルト式は今の猟銃の主流で、以前は僕も自動式を持っていたんですが、ボルト式に買い換えました。自動式だと薬莢がどこに飛ぶかわからないんですよ。ボルト式なら排莢の動作があるのでどこに出るかわかり、薬莢が再利用できるんです。

 あと、他の2丁は火薬の量が多いマグナム装弾なんですが、そのライフルはマグナムではない普通装弾なので、口径の割には火薬の量が少なくてすみます。火薬1缶買って、マグナムなら100発しかできないところ、「30-06」だと130発くらいできる。弾自体が結構高いので、全部自分で作っているんで。

――「クマ撃ち」を描き話題を集めている漫画『クマ撃ちの女』を読んでも、ものすごく精密なものという印象を受けました。照準の狂いなんかは特に。

H:そうですね、ライフルスコープは狂いやすいですよね、どこかにドンと当てたりすると、それだけでもうね。今年も7月に射撃場で撃ってみたら、100mで7cmくらいズレてたかな。シカを撃つ時なんかもだいたい頭を撃つんだけれど、100m先で7cmズレたら外れちゃうんですよ。頬のところをシャッ……と掠めるくらいになって、5頭撃ったら2頭外す、とか、今まで当たったものが当たらん、とか。やっぱり狙ったところ3cm以内に入らないとダメです。

――獲物から100mくらいの距離で撃つものですか?

H:いや、もっと遠いやつ、200~300mくらいまで撃ちますよ。獲物が見えていて「ここから撃てるな」って思ったら、そこから撃ちますから。

――視力とか、すごく良さそうですね。

H:左は弱いんです、0.7くらいかな。でも右が1.5ですね。右目で照準を見るからね。

400kg超え、軽自動車大のヒグマ

――クマを見つけた時は、どんなことを考えますか。

H:その瞬間は「止まれ!」って思っていますね。「そこで止まれ、止まれ」って。止まらなかったら走ってても撃っちゃうんだけど、たいてい止まってくれるので、こっちを見た瞬間に撃つ。銃はもう照準を合わせていますから。

 シカもそうですが、僕はクマもほとんど頭しか撃たないんですよね。頭が見えるところで止まった瞬間に撃つ。そうするとほとんど一発で倒れます。頭しか撃たないのは、一発で殺さないと暴れたりなんなりしちゃうから。距離が近いこともあって、10mくらいで撃つこともありますね。

 今年獲ったのは、30mくらいの距離で1頭と、20mくらいの距離で1頭。クマは動きが速いんで、その距離で撃ち損じたら大変ですよ。クマはシカよりも速い。速くないとシカを追いかけて捕まえることできませんから。

――「クマ撃ち」として、世間に言いたいこととかありますか。

H:動物を保護する視点しか持っていない人もいますが、僕のような猟師はやたらに撃っているわけではありません。依頼された駆除でなく、自分が獲る限りにおいては、自分たちが食べる分だけ。1頭か2頭獲ったら、それ以上は何頭いても撃ちません。それ以上獲っても処理が大変なだけですから。

 街中に出てきて農作物を食べてしまうクマの駆除についても、「かわいそう」という人もいるようですが、もし自分の家の近くにクマが出てきたら……と想像すれば、そこに住む人たちは本当におっかないですよ。銃を持っているわけでもないのに、真っ昼間に、家の前までクマが来るわけですから。「黙ってじっとしていたら、襲ってはこない」と思ってるかもしれませんけれど、そんなことはありえないわけだから。

――吉村昭さんが描いた小説『羆嵐』を思い出します。題材になった三毛別羆事件では、340kgの巨大エゾヒグマが次々と民家を襲い、7名の死亡者が出たそうですね。

H:人を襲ったクマとか人を食べたクマって、そういう習慣がついてしまっているんですよ。だから絶対に獲らないといけません。放っておいたら、次に人を見た時に、また必ず襲いますから。でも駆除のニュースが流れると、猟友会には「なんで獲るんですか、クマがかわいそう」という電話がかかってくるみたいで。現状をご存じないから、そうなるんでしょうね。

――ちなみにこれまで仕留めたクマで、一番大きいのはどのくらいの大きさでしょうか?

H:これまで仕留めたクマで一番大きいのは 400kg超えですね。大きさで言えば、軽自動車くらいですかね。すごく大きいです。冬で穴に入っていたんですが、穴の近くにいたもんだから、もう1人頼んで、出てくるのをしばらく待って。出てきたところを2人で頭をドンと撃って、それで終わりです。獲ったクマは翌朝3人で行って解体して、雪の上を引っ張るプラスチックのソリ、3台か4台くらいに乗せて持って帰りました。1日がかりで、戻ったら夕方の6時、真っ暗になってましたね。

 ハンターが減ってシカがすごく増えているから、それを餌にするクマも増えているんですよね。北海道でも今は冬眠しないクマもいます、一年中食べるものに困らないから。だから山奥にいるクマは大きくなるし、増えてしまうんですよね。

――最後に、クマと出合ってしまった時にどうしたらいいか、教えてください。

H:急激な動きは絶対にいけません。慌てて逃げたら絶対に追ってくる、それが習性ですから。逃げるにしても、クマのほうを見ながら、ゆっくりと後ずさりする。クマに背中を向けて走ったら絶対にダメです!

猟師・Hさん
旭川市在住、58歳。猟師だった父親、兄の影響で、幼いころから狩猟に関わり、20歳から自身も狩猟を始める。現在は林業に従事する傍ら、クマをはじめとする様々な獲物を狩る狩猟歴38年のベテラン猟師。地元では知られた、数少ない「クマ撃ち」の凄腕ハンター。

取材・文/渥美志保