文在寅の懲りぬ「米中二股外交」 先進国になった!と国民をおだてつつ…

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 文在寅(ムン・ジェイン)政権が米中二股外交に突き進む。国民は「先進国になった」とおだてられ、その危うさに気づかない。韓国観察者の鈴置高史氏が怪しげな「綱渡り」を解説する。

勝ち目が薄い韓国

――韓国が「WTO(世界貿易機関)に日本を訴える」とまた、叫んでいます。

鈴置:産業通商資源部の羅承植(ナ・スンシク)貿易投資室長が6月2日の会見で、「日本政府に問題解決の意思がない」として「WTOへの手続きを再開する」と発表した話ですね。

 韓国政府が問題にしているのは、日本政府が2019年7月、半導体・液晶に関連する3品目の対韓国輸出の管理を厳格にしたことです。いずれも大量破壊兵器の製造に転用できる素材です。

 韓国企業がそれらの素材を日本から輸入した直後に第3国に再輸出するなど、不審な動きが起きています。そのうえ、日本政府が質そうと協議を要請した際、韓国政府は一切、応じなかったのです。

――韓国に勝ち目は?

鈴置:WTOに提訴し、紛争解決のためのパネルの設置に成功しても、負ける可能性が高い。提訴はかなりの悪手です。

 韓国は「我々は人員拡大など輸出管理体制の強化に努めた。それなのに日本が対韓輸出を規制し続けるのはおかしい」と主張します。が、不正な輸出が疑われるのは体制だけではなく、姿勢が原因です。

 大量破壊兵器の素材を危険な国に売らないという決意が韓国政府にあるかは未だ、確認されていません。日本政府が「運用の実施状況を見極める」と説明しているのもそのためです。

 そもそも輸出管理は日本政府の権限であって、外国政府が口出しできる問題ではありません。韓国政府は日本の輸出規制は「元徴用工」問題の報復だ――つまり、政治を貿易に持ち込むのは不公正だと言っていますが、この論理がどこまで認められるかは不明です。

 それにパネルを作ってもいつ、結論が出るか分かりません。平均で2年間かかっていますし、最終審にあたる上級委員会は米国による反対で定員を確保できず、機能不全に陥っているからです。

「提訴したら日本の輸出管理の厳格化が続く」とのジレンマに韓国は陥る、と日本経済新聞は指摘。そのうえで「日本に譲歩を迫る戦術」と見透かしています。「韓国がWTO提訴手続き再開 『日本、問題解決の意思なし』」(6月2日)です。

文・キホーテに苦虫の保守系紙

――日本は譲歩するのですか?

鈴置:しないと思います。このまま放っておいても、日本に何の損害もないからです。韓国はこの件で2019年9月にもWTOに提訴しました。日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄する姿勢も示し、米国の対日圧力に期待しました。

 しかし韓国の思惑とは逆に、米国はGSOMIA破棄に激怒。結局、韓国はGSOMIA破棄もWTO提訴も取り下げました。この問題で韓国は失敗し続けてきたのです。

 6月2日、韓国外交部スポークスマンは「議論の動向次第で(GSOMIA終了も)慎重に検討する」と日本に譲歩を迫りました。

 でも、GSOMIA破棄に再び動けば、また自爆するだけです。米国にもう一度、叱られてシュンとなるのは目に見えています。米韓関係もかなり悪化していますから、韓国は日米から挟撃されます。

 文在寅政権に批判的な保守系紙は、先の日経の記事を引用する形で、自国政府のドン・キホーテぶりを報じました。

 朝鮮日報の見出しは「日本メディア、『韓国が実際にWTOに提訴するかは未知数』」(6月3日、韓国語)と素直です。

 中央日報は「WTO・GSOMIAが怖くない日本 『韓国が実際に提訴までするかは疑問』」(同)と、文在寅政権の「蟷螂(とうろう)の斧」を強調する見出しを付けています。

「徴用工」もいずれは仲間割れ

――韓国は「徴用工」でも日本を揺さぶっています。

鈴置:2018年10月、韓国の最高裁判所は自称・元徴用工の4人に対し1人当たり1億ウォン(約910万円)の慰謝料を支払うよう、新日鉄住金(現・日本製鉄)に命じました。

 新日鉄住金が応じなかったので、原告側は同社が韓国の鉄鋼最大手ポスコと合弁で設立したリサイクル企業「PNR」の株式約19万4000株を差し押さえました。

 今年6月3日に、この株式を現金化する司法手続きに韓国の裁判所が踏み切ったことが明らかになりました。同日、茂木敏充外相は「現金化されたら深刻な事態になる」と懸念を表明しました。

 菅義偉官房長官も翌6月4日の記者会見で「司法手続きは明確な国際法違反だ。あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然と対応していきたい」と述べました。日本政府は報復も辞さない構えです。

 韓国の通信社、NEWSISは「冷え切った韓日、気が気でない半導体業界…追加措置の可能性に『緊張』」(6月7日、韓国語)で、現金化すれば日本が半導体素材の輸出規制をさらに強化するだろうと、恐怖感を露わにしました。

――現金化は進みますか?

鈴置:敢えて進めない可能性が高い。訴訟を担当した弁護団の真の狙いは、日本の政府や企業にカネを出させ「徴用工財団」を作って原告以外の自称・元徴用工にも賠償金を配ることにあると見られています。

「現金化」は財団作りのための脅しの手段に過ぎません。今、本当に現金化してしまったら、日本をさらに怒らせ財団など吹っ飛んでしまいます。ただ、自称・元徴用工やその遺族は早く賠償金が欲しい。原告と弁護団の間で内輪もめが起こるかもしれません。

 これもあって「絶対に放っておくべきだ」と言う日本の専門家がいます。「いずれ、慰安婦グループのように内部分裂する。それを待てばよい」からです。

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