文在寅の懲りぬ「米中二股外交」 先進国になった!と国民をおだてつつ…

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年6月8日掲載

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最高裁判決は日本をはめる罠

――4人の自称・徴用工に賠償金を支払って「財団」を阻止する手はありませんか?

鈴置:韓国最高裁の判決は日本に仕掛けた罠です。慰謝料を支払えとの根拠は「不当な植民地支配に対する精神的苦痛」。「給料を支払っていないから」ではないのです。ここを勘違いしている人が日本にも韓国にも実に多い。

 この4人に慰謝料を支払えば「日本側が植民地支配は不法だったと認めた」ことになります。すると「当時、植民地支配により精神的苦痛を受けた朝鮮人と、その子孫すべてが慰謝料を受け取る権利がある」との理屈が成立します。韓国の個人から慰謝料請求が相次ぐのは間違いありません。

 韓国だけではありません。「待っていました」と出てくるのが北朝鮮です。北朝鮮は国連制裁で外貨獲得の道を閉ざされている。日本と国交正常化して賠償金を取り立てる作戦も、日本人拉致の発覚や核・ミサイル開発で頓挫した。しかし、個人の慰謝料という形でなら日本からカネを取り立てられると皮算用していることでしょう。

 韓国にとっては歴史改竄のチャンスでもあります。「我が国は植民地になったことはない」と韓国人は言い出しています。でも世界からは相手にされない。35年間も日本が支配したのは事実だし当時、列強も日本による植民地化を認めていたからです。

「徴用工」裁判はそれを一挙に逆転する必殺技です。植民地支配は不法だったと日本に認めさせた後、韓国人は世界に向かって「我が国が植民地だったことはない。日本が不法占拠したことはあったが、その不法性を今や日本が認めたからだ」と叫ぶつもりでしょう。

命運を左右するフォトレジスト

――話をWTOに戻します。勝てそうもないのに、なぜ文在寅政権は再提訴に動くのでしょうか?

鈴置:理由は2つあります。まず、人気取りです。韓国人は今、「ついに我が国も先進国になった」と大喜びしています。新型肺炎で世界の防疫模範国になった、との思いからです。

 一方、日本の輸出管理強化で普通の韓国人が一番、カチンときたのはいわゆる「ホワイト国」から外されたことです。信頼に足る国だから厳しい管理を免除する、といったほどの意味ですが、韓国人はそれを「先進国待遇」と見なしてきました。

 文在寅政権としては先進国入りに沸く国民の前で「途上国待遇への格下げ」を日本に修正させる必要があるのです。

 もう1つは国家戦略の問題です。日本が対韓輸出管理を強化した3品目の1つにフォトレジストがあります。これを自由に輸入できるかが、韓国の未来を左右するのです。

 半導体に回路を掘る工程は3段階。まず、「土台」となるウェハーの表面に、光が当たると溶解性が増すフォトレジストを塗ります。次に、回路の形状通りに光を当て、その部分のフォトレジストだけを溶剤で溶かします。最後にプラズマでフォトレジストの落ちた部分を掘るのです。

 半導体の能力は線幅――配線の幅が細いほど高まる。でも、細い線幅を生み出すには、反応密度の高いフォトレジストが必要になります。フォトレジストが微細加工の要なのです。

 3品目の1つ、フッ化水素は純度が低いものなら韓国で作れます。韓国製を使うと不良率が上がるので、韓国の半導体メーカー日本製が欲しい。でも、いざとなれば韓国製で間に合わせるでしょう。

 しかし、フォトレジストの国産化は当分、難しい。そのうえ、日本メーカー5社が全世界の9割のシェアを握っています。

 日本政府は3品目を全面禁輸したわけではなく「怪しげでない輸出」には許可を出しています。が、韓国とすれば日本が突然、フォトレジストの対韓輸出を止めないか気が気ではない。半導体の生産が完全に止まってしまうからです。

 そこで自由に輸入できる「ホワイト国」――現在の名称は「グループA」に戻せと要求しているのです。

TSMCは米国側に立った

――なぜ今、要求してきたのでしょうか。

鈴置:形式的には韓国政府が輸出管理体制を一応、整えたためですが、本質は米中覇権争いの激化にあると思われます。

 韓国を中国寄りと見なせば、米国がフォトレジストなど半導体素材の対韓輸出を日本に禁じる可能性が出てきました。その前に韓国は日本を抱き込んで糧道(りょうどう)を確保する作戦でしょう。

 米国政府は中国の華為技術(ファーウェイ)をいじめ殺すつもりです。同社は次世代通信規格、5Gの旗手。技術覇権を維持したい米国にとってもっとも目障りな会社です。

 華為の基地局やスマホは米国内で売らせず、同盟国にもそれを要求しました。さらに華為に対し技術や、半導体などの中核部品を売らないよう、同盟国や企業を説いています。

 動向が注目されたのは、世界最高の微細加工技術と豊富な生産能力を持つ台湾のTSMC(台湾積体電路製造)です。同社は華為にシステム半導体――電子製品の主要な回路を載せた半導体を一手に供給してきましたが最近ついに、米国の要請を受け入れました。

 日経新聞が「TSMCが新規受注停止 ファーウェイ、スマホ生産打撃」(5月19日)で報じました。この記事によると、TSMCは2020年9月半ば以降、華為への供給を止めるようです。

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