高学歴信者を心酔させた「オウム麻原」マインドコントロール術、4つのカギ

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配偶者以外との性交禁止

 では、最後のカギは何か。

「第四の手法は、性欲の制限です。これで食欲、睡眠欲、性欲という人間の三大欲求の全てを遮断することになる。ASCへの到達がより速く、強固になります」

 確かに教祖はハーレムの中の雄オットセイよろしく美人信者たちとの情交に耽っていたが、一般信者は、配偶者以外との性交は破戒行動として禁止されていた。

「彼らはこうしたASCの体験を、超能力を秘めた教祖の教えによって導かれたものと錯覚してしまった」

 教団の外報部長を務めた上祐史浩氏も著書『オウム事件 17年目の告白』で、

〈さまざまな神秘体験は、基本的にヨーガの行法で得られるもので、麻原の力に頼る必要はないものだった。(中略)当時の私たちは、麻原の神秘力によるものと錯覚していた〉

 と結論付けている。

 ちなみに禅宗や真言密教など既存の宗教にもASCに至る技術を有するものがある。山に籠って野を駆け巡り、滝に打たれる修験僧が幻覚を見やすいことは容易に推察されよう。しかし彼らはこれを警戒し、修行僧にハードルを課すという。

 日本脱カルト協会代表理事で、立正大学心理学部対人・社会心理学科教授の西田公昭氏はこう語る。

「たとえば日蓮宗の荒行でも精神の知覚異常は生じます。でも“悟りを開いた”など言おうものなら、師たる高僧に“それに何の意味がある”と退けられてしまう。そうすることで彼らは歳月をかけ、修行僧の人格の完成を待ち、宗教者として成熟させていくのです」

 それがオウムでは、「解脱への前触れだ。君は第1ステージをクリアした」と持て囃し、まるで自動車教習所のように段階を設け、「解脱者」講習のバーゲンセールを行っていたのだ。

 信者のASC到達を導く構成要因を次々と駆使した教祖について、日本脱カルト協会代表理事で、立正大学心理学部対人・社会心理学科教授の西田公昭氏はこう分析する。

「麻原は、オウムを創設する前に、阿含宗など様々な宗教団体を渡り歩いた。新興宗教には、解脱を説きながら、いざ修行しても何も起きないという空虚感がありがちです。麻原は宗教渡り鳥の経験があるから、その果実を与える大事さを知っていたのでしょう。そのうえでハルマゲドンという世界最終戦争の到来を予言し、“時間がない。救済への道を急ごう。さもなければ、世界は崩壊する”と、不安を煽ったのです」

 もっとも、いくらASCに導く技法レベルが高くとも、信者がファースト・コンタクトで拒絶反応を起こし、修行に入らなければ、元も子もない。その点について片田氏の解説を聞こう。

「麻原は巧妙な催眠術師でもありました。彼は盲学校を卒業後、東大進学を目指したが、挫折した。この時の屈辱感から、自己愛を傷つけられた人間がどんな心情に陥るかを体感的に分かっていた。一方、人間とは、子どもの頃、サッカー選手やノーベル賞を獲るような科学者になりたいといった夢を描くもの。普通は成長の過程で厳しい現実と折り合いをつけるのですが、オウムに入信した高学歴信者には、この『幼児的万能感』を諦められない人が多かった。医師であれば、救えない患者に出会う場面は必ず訪れ、そこで無力感に苛まれます。麻原はそういう悩みを抱えながら近づいてきた人たちが、どういう言葉をかけてもらえれば、救われるのか、熟知していた。“君の能力はオウムにいてこそ役に立つ”などと囁かれれば、『万能感幻想』が満たされます。それを求めて、彼らが自ら教祖を神格化した。麻原の対人操作能力に踊らされたのです」

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