グリ森「キツネ目の男」はおとり役だった? 公開されなかった“モンタージュ写真”

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舞台に取り残された捜査員

 似顔絵が公開されたのは、その2カ月後のことである。「似た男がいる」という情報は、最初の1カ月間で2000件以上にも達した。だが、それ以降は激減する。捜査関係者によれば、これまでに寄せられた「キツネ目の男」に関する情報は合わせて約5000件。そのうちの1割弱にあたる480人が面確認やアリバイ捜査の対象になったが、再捜査にまで至る人物は出てこなかった。

 3年前、「キツネ目の男」を見た7人のうち、最後まで現職だった捜査員が退官した。7人全員がOBとなった今でも、定期的に集まりを開いている。だが、会合の席で事件のことを口にする人は少ないという。

「やっぱり負い目があるんでしょう。私だって、警察官を辞めてもう何年も経つのに、いまだに夢をみるんです」

 とは7人のうちの1人。

「夢はいつも同じで、私はうす暗い路上を走り、逃げる男の後ろ姿を追っている。ようやく男の肩に手が届くと思った瞬間、なぜか足が動かなくなるんです。そこで男は決まってこちらを振り向く。それは紛れもなくFの顔なのです」

 駅のホームで職質をためらったリーダー役の捜査員の自宅リビングには、男の似顔絵を抱いた制服姿の本人の写真が今も飾られている。理由を尋ねると、暫時沈黙ののち「さあね」とはぐらかした。また、別のある捜査員は現職を離れたあとも、電車や雑踏の中で無意識のうちに似た人物を捜している自分にふと気付くことがあると言う。

 劇場型犯罪といわれた「グリコ・森永事件」の完全時効から、はや17年余。主役の1人である「キツネ目の男」を見失った特殊班の捜査員たちは、今もその舞台に取り残されている。

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週刊新潮 2016年8月23日号別冊「輝ける20世紀」探訪掲載

特集「『キツネ目の男を追え!』 グリコ・森永事件で地を這った『大阪府警捜査一課』特殊班――新井省吾(ノンフィクション・ライター)」より

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