ドラマ以上に熱かった ベテラン刑事の正義感が泣ける

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 事件を解決すべき捜査で、現場の刑事たちに対してストップをかけようとする警察キャリア。その背後には「大きな力」が……。というのは、警察モノのドラマや映画で定番の構図です。こういうものばかり見ていると、何だか警察に相談に行くのも不安になります。

 しかし、実際にはどうなのでしょうか。

「元警察庁Ⅰ種警察官」という、キャリア中のキャリアであった経歴をもつ、作家の古野まほろさんは、新刊『警察手帳』で、キャリアにせよノンキャリアにせよ、現実の警察官のモチベーションは、「正義感」「勧善懲悪」「人助け」だ、と断じています。

 古野さん自身が見聞きしたエピソードが豊富に収められた同書から、現場の刑事たちの「正義感」を感じられるエピソードを紹介してみましょう。(以下、『警察手帳』から抜粋、引用)

取調べの名手の本音

 古野さんが、ある警察本部の刑事だったときのことです。
 ある殺人事件があり、古野さんもその捜査本部に詰めることになりました。 
 被疑者はすぐに検挙され、取調べ官になったのは、捜査一課の長い、大ベテランの刑事Y係長。古野さんの指導担当でもある警部補でした。
 取調べが始まって数日たったある日、勤務時間外。古野さんは、誰もいないはずの倉庫のような場所でアグラをかき、一升瓶で日本酒を飲んでいるY係長を発見しました。
 ビックリして、何をしているか、と訊く古野さん。すると、Y係長は「古サン、恥ずかしいよなあ」と言い、こう続けました。
「野郎、落ちないんだよ」
 古野さんはさらにビックリしました。Y係長の取調べは絶妙で、被疑者も落ちる寸前に見えていました。しかもその日まで、Y係長の弱音も愚痴も、渋面すら見たことがなかったからです
 Y係長は、古野さんがいずれは異動していく教え子ということもあり、「教育」をする気になったようです
 頭に手をやると、髪を掻き上げました。そこには硬貨大の脱毛症が……。
 ベロベロになったY係長は、こんなふうに話しました。
「情けねえよなあ、俺は調べのたび、こんなの作っちまうんだよ」
「野郎にとってみちゃあ、生きるか死ぬかの瀬戸際だしなあ」
「野郎の人生と、被害者の人生と、ぜんぶ調べ官にかかってる」
「気の小せえ俺には、いっつも、重すぎるんだ、これ内緒だぜ?」
「古サンはこれから、偉くなってく人だけど、現場の刑事が、朝から晩まで野郎と被害者のことばっか考えてのたうち回ってるって、ホラこのハゲ見てさ、覚えといてくれよな」

 まるでドラマのようなセリフですが、いずれも古野さんが実際に聞いた言葉なのです。

「悪い奴は懲らしめんといかん」

 もうひとつ、古野さんが警察本部の所属長だったときの話です。
 事件係のキャップは大ベテランのT警部。筋金入りの刑事だったそうです。
 事件の捜査中のある朝、事件の鬼のようなTさんに、古野さんは、ふと質問をします。
「Tさんはどうしてそんなに事件ができるの? 捜査止めたら死んじゃうみたいな、その熱意はどこから来るの?」
 この問いにT警部はニヤッと笑い、こう言いました。
「ワシこれしかできませんけん」
「事件をやらん警察官は、警察官じゃないね」
「要は、やるかやらんか、それだけですわ」
「能書きはええんです。悪い奴がおったら、懲らしめんといかん」
「ワシああいう奴ら(手掛けてきた事件の被疑者)、絶対に許せんのです」
「ほやけん、ワシにやれ、言うてください。とことんやりますけん」

 そして最後にポツリと、「ワシ古野課長のこと好きやけん、嫌ならやらんですわ」

 キャリアとノンキャリアがいがみ合い、捜査がなかなか進まないという、よくあるストーリーも、ドラマチックで面白いのは確かですが、実際には、ほとんどの刑事や捜査官が「正義感」をもって、日夜、職務にあたっているというのです。

 この『警察手帳』の中で、古野さんは、「正義感」「勧善懲悪」「人助け」といった性格傾向があれば、「それだけで警察官としての資質がある」と述べています。

デイリー新潮編集部

2017年3月21日掲載

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