見た目はヤクザそのもの「マル暴刑事」の日常とは

社会2017年8月2日掲載

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スキンヘッドに色眼鏡

 犯人を追っているはずの刑事が、人相の悪さゆえにワルモノと勘違いされて取りおさえられる――というのは、ベタな刑事ドラマにありがちなシーン。

 ただ、これは絵空事かといえばそうでもない。暴力団を捜査するうちに、その筋の人と同化したような見た目になる刑事も珍しくないというのだ。

 警視庁で暴力団など組織犯罪などを捜査するために作られた部署が、組織犯罪対策部(通称・組対〈ソタイ〉)。この組対について解説をした『マル暴捜査』(今井良・著)によれば、暴力団捜査の最前線に立つ組対4課の捜査員には、「外見でなめられないようにする」ことがまず求められる。今井氏が見た中には、スキンヘッドに色付き眼鏡で、どう見ても暴力団員にしか思えない刑事もいたという。

 もちろん、「なめられないように」とはいっても、常に暴力団員を追いかけたり、彼らと揉めたりしているわけではない。日頃はかなり地道な業務をこなしているのだ。同書をもとに、その「日常」を見てみよう(以下、『マル暴捜査』から抜粋して引用)

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出勤は朝6時半

 マル暴刑事は日々、どのように動いているのか。筆者(注・今井氏)が取材した情報をもとに、 警視庁の山田警部補(仮名・所轄警察署では警部補=係長)の1日を見てみよう。

 山田警部補は40代。大学卒業後、警視庁に入庁。東京都西部の警察署や機動隊を経て、発足直後の組対4課に配属された。

 髪型はオールバックで、体は細身。柔道の上位有段者で、さまざまなマル暴捜査の現場を踏んで来たベテランでもある。現在は都内の某警察署(所轄)の「組織犯罪対策課」に所属している。

 出勤は早い。午前6時半には、所属する警察署の「組織犯罪対策課」の自席に到着するのが常だ。ちなみに警視庁の警察官は午前8時半が始業時間である。

 捜査部門では、前夜の当直中の事件などを警視庁本部に上げなければならず、その報告書のまとめなど、次の日勤帯の担当者の始業までに片付けておくことは山のようにあるという。

 この早朝の時間帯に報告、引き継ぎも行なわれる。

「係長。B(暴力団組員)2名を会社員への傷害容疑で逮捕しました」

 早速、当直担当が前夜のマル暴事案の報告に来た。管内に多くの飲食店や風俗店を抱えるため、暴力団絡みの犯罪は後を絶たない。その被害者の多くはサラリーマンなど一般人だ。

 逮捕された2人は地元の暴力団員で、調べに対し「目が合ったことに腹を立てた」などと供述したという。当直担当は組織犯罪対策課の捜査員ではなく、刑事課の捜査員だったため、山田警部補が捜査報告書などの資料とともに捜査を引き継いだ。午前中のうちに書類を改めてまとめ直し、警視庁本部の組対4課「暴力事件情報係」に報告した。

組事務所を訪問

 午後1時、山田警部補は組織犯罪対策課の後輩の巡査部長を連れて、管内の「視察」に出掛けた。管内には広域ではない地元の暴力団が複数存在する。こうした暴力団を普段から監視・ 視察するのも重要な任務なのだ。

 暴力団事務所のあるビルは、外見もどこかいかつい。山田警部補はインターホンを鳴らした。

「○○署の山田です。話を聞かせてくれますか」

 インターホンのカメラに警察手帳を掲げる。警視庁の警察手帳は二つ折になっていて、 表面に警視庁の徽章(バッジ)があり、内側は身分証になっている。顔写真と氏名、階級、そしてPナンバーと呼ばれる5桁の個人識別番号が刻まれている。

 事務所内に通された山田警部補と巡査部長は、組幹部と相対した。

「係長(山田警部補)たちが興味ある話題はないですよ」

 幹部はこんな風に話しかける。話題は他愛ないものが多いが、実態は「腹の探り合い」なので、独特の緊張感が漂う。話しながら、内部をじっくり観察することも忘れない。

「組員の表情はもちろん、事務所内部の備品まで細かくチェックしています」

 このように正面から暴力団への情報収集を進める場合もあれば、エス(スパイ)から情報を得る場合もある。この日は通常のあいさつ程度に終わり、特に大きな変化は見られなかった。

 午後3時、事務所を出た山田警部補と巡査部長は管内の繁華街を歩く。途中、ビルのテナントが変わっていることに気づいた巡査部長は、カメラで店舗の外観を撮影する。飲食店、風俗店が多いエリアだけに、日頃から、街の変化を感じ取れるようにしているという。

 署に戻ると、この日の視察内容などを報告書にまとめなくてはならない。さらに、この日は課長以下全員が参加する組対4課の会議も開かれた。そこでは各マル暴刑事達が集めた情報が集約され、捜査方針が決められるという。

「とにもかくにも対象組織の情報を収集すること。暴力団捜査はこれに尽きます。このエリアは暴力団、半グレや外国人組織の犯罪も多く、腕の振るい甲斐があります」

 山田警部補はこう話して相好を崩した。マル暴刑事達は、大きな事件がない日は、こうした日常を送っている。

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 いかがだろうか。立ち寄り先が組事務所であることを除けば、意外と普通の企業の営業マンに近い、地道な仕事の積み重ねであることがよくわかる。しかし、この積み重ねが、いざという時にものを言う、と同書では指摘している。

デイリー新潮編集部