【特別書下ろしエッセイ】「トキワ珈琲」の物語(明治安田・永島英器社長)

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 文学をこよなく愛する明治安田・永島英器社長。今回は、明治安田で展開している、保険契約者が亡くなった際に、自身の手書きメッセージが保険金とともに受取人のもとへ届くサービス「エピローグ・レター」をテーマとして、自らが書下ろしたエッセイを掲載。

 偶然と偶然が物語を紡いでいく。過去から現在へ、そして現在から未来へ――想いをつなぎ、幸せを形づくるように。これは、大阪で営業職員として働く「りさ」さんと、喫茶店オーナーの「ちかこ」さんとの心温まる物語。

 ***

 それは偶然だったのだろうか?

 何百枚と集まった全国の「お客さまとの出逢い」エピソード。すべてに目を通した私はほとんどためらいなく、ある1枚を選び、社長賞に決めた。大阪の「りさ」という営業職員と喫茶店オーナーとの物語が綴られていた。
 
 12人の受賞者が招かれた発表会。りさの発表のときにだけ、私は挙手して質問を投げかけた。

―そのオーナーはどんな人なんですか? あなたを娘のように思ってくれているのかな?

 保険会社の社長であれば、もう少しましな質問をしそうなものである。初めて保険の提案をしたきっかけや、その設計内容とか……。でも、私はそのときなぜか、喫茶店のオーナーのことが強く心に引っかかっていた。

 りさの目が見る間に涙で溢れた。えっ!? なにか悪いことを聞いたのか? と私が心配するよりも先に、りさがかすれるような声で話し始めた。「ちかこさんは病気で昨年、亡くなったのです――」

 それは偶然だったのだろうか?

 発表会の後のランチの席で、私の隣に座ったのは、りさであった。12人も受賞者はいたというのに。そこで、ちかこさんと、りさの物語を詳しく聞いた。

 なんとその翌日に私は大阪出張が入っていた。時間をやりくりして、何かに導かれるように、私は「トキワ珈琲」の跡を訪ねた。

 その後、私はパリの国際会議(OECD)ラウンドテーブルに登壇の機会を得た。テーマはサステナブルファイナンス(持続可能な社会を実践するための金融投資)だった。スタッフが十分に調査し立派な想定問答集を用意してくれていたが、壇上で私の口から飛び出したのは「トキワ珈琲」の物語だった。

 最初は「えっ? 何の話なの?」とキョトンとする500人の聴衆。私だって、なぜ、こんな話を始めたのか、自分でもわからなかった。

トキワ珈琲の話

 明治安田には3万7000人の営業職員がいます。そのなかに、りさという、大阪勤務の30歳くらいの女性がおります。

 彼女は入社後、なかなか保険が売れませんでした。落ち込むとよく近所の喫茶店に寄っていました。その店は「トキワ珈琲」といい、ちかこさんという70歳代のオーナーが、いつも、りさを励ましてくれました。

 その後、コロナ禍が発生し、街から人の姿は消え、もちろん「トキワ珈琲」の客も絶えてしまって、ちかこさんは困っていました。ここで恩返しとばかり、りさは、「トキワ珈琲」の常連客や会社の同僚、果ては見知らぬ人にまで、ちかこさんのコーヒー豆を一生懸命売り歩きました。保険よりもコーヒー豆を売るほうに熱心だったくらいです。そんな様子を見ていた常連客や近所の人たちは、彼女の行動に心をうたれ、保険を買うなら、りさからと、保険もだんだん売れるようになりました。

 やがてコロナ禍が終わって「トキワ珈琲」は復活しますが、昨年、病気でちかこさんは亡くなり、お店も閉店してしまいました。

 いまでも、りさは、ちかこさんの形見のネックレスを毎日身に着けて、困ったこと、悲しいことがあると、かつて喫茶店があった場所に出向き、天国のちかこさんと言葉を交わしていると言います。

 こんな話を私が知ったのは偶然でした。心揺さぶられた私は、大阪のその喫茶店の跡地を見に行き、りさにも逢いました。そして、わかったのです。

 自分は、ちかこさんにこの場所に呼ばれたんだ、と。ちかこさんの声が私には聞こえました。

「りさが、明治安田で一生働くと言っているよ。あなたには社長として全力でいい仕事をしてほしい。私は天国から見ているから」。私はただただ涙が止まりませんでした。

 なぜ、こんな話をするのか、みなさんは疑問に思うかもしれません。テーマはサステナブルファイナンスなのに。

 私は思うのです。歴史や故人に敬意を持つこと、そして、ときには死んだ人の声に耳を傾けること。それが、未来世代への責任を感じる第一歩なのだと。

 私たちは長い歴史の一部であり、大きな自然の一部である――。このことを体感することが持続可能な社会をつくる最初の、しかし大きな一歩なのだ。そんなことを、りさという若い社員から、「トキワ珈琲」という街の小さな喫茶店から、教わったのです。

 世界中から集まった私の同業者たちを中心とする聴衆は、大きな拍手をしてくれた。見れば、涙をぬぐう人もいる。後で、国際会議でこういうことはめずらしいと言われた。

 それは偶然だったのだろうか?

 パリから帰国後すぐに、大阪出張が入っていた。私はもう一度、りさと連れ立って「トキワ珈琲」跡を訪ねた。私はパリの会議での出来事を報告、そして、りさは、近づいてきた出産についての報告。ちかこさんは、自分の孫は望み薄だからと、りさが結婚して子を授かることを切望していた。私は、ちかこさんと一緒に安産を祈った。

 もう、ちかこさんの声は聞こえなかった。しかし、その日、一日中雨だった大阪で、この瞬間だけ、サッと青空がのぞき一条の光が差した。

 私の好きな作家、川上未映子さんの言葉が頭に浮かんだ。

――ひとの幸せとは、記憶の点をつないで出来る星座のようなもの――

 大阪出身の川上さんも「トキワ珈琲」の前を通りかかったことがあるのだろうか? 涙にぬれた頬を、秋風が揺らした。

あなたの想いを、未来へ届ける。
【エピローグ・レター】

「エピローグ・レター」は、契約者からいただいた手書きのメッセージを、亡くなった時に保険金とともに受取人にお届けする、明治安田の独自(*)のサービス。
(※2025年5月 明治安田調べ)

 普段なかなか言葉にできない感謝の気持ちや生命保険に託した〝想い〞を形にして、ご家族にお届けしている。

サービスの詳細はこちら

エピローグ・レターの動画はこちら

<留意事項>
●利用は無料ですが、契約の内容によっては利用できない場合があります
●申込時点で、契約者が成人でないと利用できません
●受取人を変更した場合や契約内容に変更があった場合は、利用できなくなる場合があります
●預かったメッセージには遺言書としての効力はありません

■提供:明治安田

永島英器
1986年に明治生命保険相互会社(現・明治安田生命保険相互会社)入社。米国駐在や群馬支社新桐生営業所長、静岡支社長などを経て、2015年に執行役企画部長。2021年7月取締役代表執行役社長グループCEO。2026年4月にチーフ・サステイナビリティ・オフィサーに就任。

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