簗氏は「大臣を辞めたい」と言っていたのに…問題議員が高市総理の「大事な簗ちゃん」に出世した理由
結局辞めさせるなら、さっさと辞めさせれば良かったのに――。簗和生農水大臣の問題について、多くの国民がそう思っていることだろう。実際、与党内にすら簗氏をかばう声は皆無だったという。裏金問題を抱えた比例復活議員である簗氏を、なぜ高市総理は「私の大事な簗ちゃん」と呼んでいたのだろうか。政治ジャーナリストの永田象山氏が、簗氏が総理のお気に入りになった経緯を解説する。
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ちゃん付けで呼ぶこと自体は珍しくないが…
高市「とにかく私の大事な知恵袋の簗ちゃんが、いなくなったら大変です」
テレビなどで繰り返し流されている映像の通り、先の衆院選で簗の応援に入った高市は簗を「簗ちゃん」と呼んでいる。永田町界隈では特別に親しい関係でもない政治家同士が“ちゃん”付けで呼び合うことはよくあるが、それを割り引いても、高市の演説の様子を見る限り簗とは近い関係であることが窺える。
高市が大臣や閣僚に起用するタイプにはいくつかのパターンがある。一つは、高市が党の政調会長時代に仕えた議員を重用する傾向だ。
例えばアメリカとの貿易協議を担う赤沢亮正経産大臣は、石破茂前総理の側近のイメージが強いが、実は高市が最初に政調会長を務めた2013年に国土交通部会長として高市を支えていた。このことを高市が評価して経産大臣という重要ポストを任せていると言われる。そして簗も、二度目の政調会長時代の2021年に農林部会長として高市を支えていた。
酪農などの農業が盛んな那須高原を選挙区に持つ簗にとって、農水行政は政治家としてキャリアアップするためには必須の政策分野だった。簗と親しい自民党議員も「彼は農業についてはよく勉強しているし、詳しい」と農政通であることは認めている。一方、高市は経済や産業政策、経済安保などの分野には強い関心を持っていたが農政には余り馴染みがなかった。こうした状況を簗は上手く利用して高市にアプローチを図ったという。
「農林水産行政について簗は(高市への)“ご注進”を怠らなかった」(自民党関係者)
会合では総理の傍らに陣取って耳打ち
高市が総理になってからも簗のこうした姿勢は変わらなかったようだ。
去年暮れ、高市に近い議員が集まった会合に高市本人が顔を出した時、簗は高市の傍らであれこれ耳打ちをしていたという。この現場に遭遇した出席者によれば「総理の間近で農林行政について云々話していた」ということだ。
週末はほとんど公邸に籠もるだけで、表立った動きを見せない高市。高市と親交のある経済学者によれば「総理はよく勉強をされています」ということで、政策の勉強に時間の多くを費やしているようだ。
いわば“ガリ勉”タイプの高市にとって簗は、自分の疎い農林水産行政をサポートしてくれる格好の手下だったのだろう。簗の応援で高市が訴えた「私の大事な知恵袋の簗ちゃんが、いなくなったら大変」という言葉には一面の真理があるのかもしれない。
辞めさせたくなかったのは高市総理だけ
中野洋昌(公明党)「適材適所の人事をぜひ行っていただきたい」(13日 衆院予算委員会)
問題の発言が報じられた直後から、野党側は当然のことながら総理の任命責任を追及し、簗大臣の速やかな更迭を求めた。野党だけでなく与党内からも「大臣としてはもちろん、国会議員としてもアウトだ」(閣僚経験者)と厳しい声が飛び交い、簗を守ろうとする動きは皆無だった。ただ一人、高市を除けば。
自民党関係者によれば、他ならぬ簗本人も「大臣を辞めたい」という意向を官邸側に伝えていたのだが、高市がそれを認めなかったということだ。なぜ高市は簗をかばったのか。辞任前の段階で筆者が永田町を取材すると、以下のような声が聞こえた。
「(高市)政権も危機は感じているのだろうが、この手の危機対応はできないのだろう」(閣僚経験者)
「自分が閣僚としていったん決めた人事だから、外からの圧力で辞めさせたくないのだろう」(霞が関関係者)
いずれも推測であり、誰も総理の真意を知らなかった。一つ確かなことは簗を農水大臣に起用したのは高市本人ということだ。
高市は人事を自分で決めたがり、他人の意見を聞かない。高市に一定程度の影響力がある政治家と言えば、義弟である鈴木俊一を党幹事長に押し込んだ麻生太郎副総裁くらいのものだ。簗の例は、高市がどういった人間を周囲に配置しているのかが良くわかる例と言える。(敬称略)
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新潮QUEへの永田氏の寄稿【「簗ちゃん」問題は高市人事の象徴――野党とのパイプ役を更迭しイエスマンを重用するセンスを問う】では、総理にとって耳の痛い話を直言できる人材がいなくなった自民党と官邸の現状についてもレポートしている。


