大雨は日本だけでなくタイでも… 東京では想像できない「バンコクならでは」の被害事情
日本でもこの秋、各地で長雨や記録的な大雨に見舞われたが、タイでも9月下旬から激しい雨が続いていた。首都バンコクでは道路の冠水や交通の混乱が相次ぎ、一時は空港の運航にも影響が及んだ。10月に入ってからも激しい雨や雹に見舞われている。日本でも、そしてタイでも雨の降り方が変わりつつあるなか、洪水対策を進めてきた巨大都市で思わぬ被害が……。旅行作家の下川裕治氏がレポートする。
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10月1日の午後5時、バンコクで食料品の輸入商社を経営する日本人のKさん(51)は、オフィスで「今日も帰宅に1時間半か……」と溜息をついた。外は激しい雨が降っていた。スマホでTikTokを見ると、バンコクの北部、ラープラオやラクシーあたりでは大粒の雹が降っているらしい。先週末の大雨といい、今年のバンコクの雨はいつもと違った。
いつもは通勤にバイクタクシーを使っていた。事故は心配だが、安くて早かった。とくにグラブという配車アプリの割安サービス「セーバーバイク」を利用すると、オフィスから自宅マンションまで約20分、35バーツ(約175円)ほどで着いてしまう。BTSという高架電車も使えるが、電車代だけで35バーツ。家から最寄り駅、最寄り駅からオフィスまで歩くと通勤に片道1時間半はかかってしまう。
「走るのが難しいようなんです」
バンコクは渋滞都市である。通常なら30分ほどで着くところが、渋滞に遭うと2時間以上かかることは珍しくない。しかしバイクタクシーは、渋滞で動かない車の間をすり抜けていく。バンコクで遅れずに現地に着くことができる数少ない乗り物だった。国やバンコク市は高架電車や地下鉄の新設や延伸を進めているが、路線がまだ足りないことに加え、運賃が高く、庶民の足の役割を十分に果たしていない。そこで電車や地下鉄では、この6月まで、登録すれば運賃を最大20バーツ(約100円)にする政策を進めていた。しかしこの制度はタイ人が対象で、日本人のKさんはその恩恵を受けることができない。勢い、安くて早いバイクタクシーになびいてしまう。
日系企業のなかには、事故を考えてバイクタクシーを禁止しているところもあるが、Kさんの会社は自由にしていた。商品サンプルを届けたり、トラブルの対応など、バイクタクシーがなければKさんの会社はビジネスが停滞してしまう。セーバーバイクの登場で、運賃が安くなったことも大きかった。バンコクのビジネスはバイクタクシーに頼る環境ができていた。
ところが1週間前の9月25日、Kさんは帰宅しようとグラブでバイクを手配しようとすると、配車がされなかった。社員に訊くと、バイクタクシーはほとんど走っていないという。
「道路が冠水している場所があって走るのが難しいようなんです」
Kさんのオフィスから見下ろす道は冠水していない。雨は降っていたが、雨具を着ればバイクタクシーに乗ることはできる。しかしそのバイクタクシーが走っていない。バンコクを襲った新しい洪水被害である。
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