カンヌ映画祭で脚光『急に具合が悪くなる』に触れた闘病中のがん患者が「孤独が和らいだ」と明かす理由 「がんになってぼんやりと考えてきたことが言葉になっていた」

  • ブックマーク

「がん世界」の現実

「急に」の先にある“人生の終わり”が、文字通り「急に」リアルに現れるのが「がん世界」の現実だ。しかし、その可能性は「非がん世界」でも実はゼロではない。となると、2つの世界に大きな違いはないのではないかと頭では思う。思うのだが「非がん世界」の常識では「急に」はないものとして日常が進む。

 私の場合も、自分の体のあれこれを考えながら、同時に「非がん世界」で進む現実のあれこれを調整する必要に直面した。「がん世界」の住人になってからやってきたことの多くはこれだった。

『急に具合が悪くなる』は“対策”や“希望”について書かれた本ではない。が、宮野さんと磯野さんの思考の軌跡とそこから生み出された言葉の数々に納得し、似たようなことを考えていた人がいたことに孤独が和らいだ。

 知識、思考、言語能力のどれをとっても私に同じことができるわけはないことははっきりしているが、もしかしたら、私のささやかな経験でも何か残しておくことは無意味ではないかもしれない。少なくとも存在すれば選択肢になれる。それで良いと信じることにする。

 そういうわけで、「がん世界」へ足を踏み入れた日から感じたあれこれを書いてみることにする。“対策”や“希望”は書けない。『急に具合が悪くなる』可能性を抱えながら「がん世界」を彷徨ってきた旅行記のようになればと思っている。

※記事中で引用した文献・資料の出典は以下の通りです。

『急に具合が悪くなる』(著 宮野真生子・磯野真穂/晶文社/2019年9月)

Y・J
1963年生まれ。京都大学大学院を経て、テレビ局に就職し、数多くのドキュメンタリー番組や教育番組を手掛ける。退職後は大学に転職し、現在も教員としてメディア論や社会学などを教えている。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。