病弱な妻を愛しているけれど「もしいなくなったら」を考えてしまう。別の女性と10年関係を続け、“10年後”の約束にすがる53歳夫

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倒れていた妻…

 悩みながらも濃厚な関係が10年続いたある日、理江子さんと会って帰宅すると、怜菜さんがリビングのソファに倒れこんでいた。意識はあったが、片方のまぶたが下がっており、ろれつも回っていない。救急車を呼んだ。

「脳梗塞でした。後遺症もありそうだと言われました。かわいそうなことをしたと思いながらも、これは妻の無意識の復讐なのかと感じたりもしましたね。入院して1週間ほどたったころ、やはり左半身に後遺症が残ると。リハビリすれば身の回りのことくらいはひとりでできるようになるかもしれないが、以前のようには戻らない可能性が高いと言われました」

 それを理江子さんに話すと、「もう無理だわ」と彼女は表情を歪めた。「あなたは妻の元へ戻って。私も人生やり直すから」と。それだけは嫌だと彼は必死にすがった。せめて友だちとして会ってほしいと。すると彼女は「私はあなたをただの友だちとは思えない。自分の気持ちを断つしかないの」と厳しい口調になった。

理江子さんとの「10年後」と、妻の言葉

「それでもすがりつこうとする僕に、『10年後に連絡をとりあおう』と理江子は微笑んだ。あれから2年ほどたちますが、僕はまだ立ち直れていません。喪失感が深すぎた。妻は思ったより回復できず、高次脳機能障害と診断されて、今はリハビリをしながら施設で暮らしています。施設に移るとき、回らない口でしきりに『もういいよ』と言っていたんです。結婚生活を解消してもいいという意味だったようです。理江子のことは知らないはずだけど、もしかしたら気づいていたのかもしれない。それが怜菜を苦しめていたとしたら……。罪深いですよね」

 怜菜さんが自宅で日常生活を送れるようになることはほとんど望めない。先日、怜菜さんは「離婚」と言った。別れたほうがあなたのためよと言いたそうだった。怜菜ならそう言うだろうと賢造さんは感じて涙した。

「怜菜がこんなふうになったのは僕のせいだから、離婚はしません。最後まできちんとめんどうを見るつもりです。でもあと8年たったら、きっと理江子に連絡してしまう。そのときどういう状況になっているかはわからないけど」

 理江子さんはおそらく気持ちを切り替えて「人生をやり直して」いるだろう。自分もなんとかしなければという思いはあるが、「50歳を過ぎたおっさんが、なにをどうやってやり直せばいいのか」とも感じていると賢造さんは言った。

「仕事を続け、妻の見舞いを続ける。それしかできない。僕の人生というものがこの先、存在するのかどうか。いや、そもそも僕の人生って何だったのか。そんなことばかり考えてしまいます」

 消え入りそうな声で、賢造さんはゆっくりとそう言った。

 妻を見舞い続けながら、理江子さんへの未練も断ち切れない賢造さん。記事前編では、そんな彼が育った家庭環境と、怜菜さんに“母の面影”を見て結婚を決めるまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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