発売前日に“新事実が発覚”して顔面蒼白…ネットニュースでは考えられない「昭和の週刊誌」の修羅場「これでもう精いっぱいだよな」

  • ブックマーク

「キミ、まだ知らないのか。あれは……」

 11日(火)の夕方、校了となり、編集部は休みに入った。その夜、松田宏デスク(1940~2018、のちの編集長)は、自民党の大物議員やほかの関係者と、赤坂の料理屋で会っていた。

 松田デスクは大物議員とは古くからの知友で、時々会っては、ざっくばらんに政界の裏話などを聞いて、いわゆる“ネタ探し”のお世話になっている仲だった。以下は、その松田デスクが、生前に語っていた“ドキュメント”である。

 乾杯も早々に、松田デスクが「さっき校了にしてきましたが、今週は、中川一郎さん急死の取材で、たいへんでしたよ」と話を向けると、大物議員は、「キミのところは、どういう記事にしたんだい?」と聞いた。「まあ、中川さんの健康管理の話が中心です」。すると議員は、こう言った――「キミ、まだ知らないのか。あれは、首つり自殺なんだよ。もうすぐマスコミも察知して、動きはじめるはずだぞ」。

 松田デスクは、一瞬で酔いが醒め、青くなった。「こりゃ、まずいな」と思ったという。おそらく明日(水)には、おおやけになって、日本中が大騒ぎになる。週刊新潮の発売は木曜日だ。それまでに、さらに詳しい情報が出るにちがいない。記事タイトルは《予測された「突然の死」》となっているので、これだけ見たら、自殺報道を取り込んだ記事のようにも見える。だが、読んでみれば、まったく見当はずれの内容であることは、明らかだ。

 松田デスクは、すぐに店の帳場から、山田彦彌編集長の自宅へ電話を入れた(いうまでもないが、当時は、ケータイもスマホもない)。

「ヒコヤさん、とりあえず、印刷を止めたほうが、いいんじゃないですか」。まだ印刷がはじまったばかりの時間帯のはずだ。ヒコヤさんは「よしわかった。松っちゃん、すぐ大日本(印刷)へ飛んでくれ。おれもすぐに行くから」。

 その場でヒコヤさんは、編集部の進行担当N氏の自宅へ電話を入れ、印刷をストップさせるよう、指示を出した。松田デスクは、大物議員に中座する非礼を詫び、すぐに市ヶ谷の大日本印刷の工場へ向かった。20時ころのことだったという。

 大日本印刷の現場には、同社の営業担当者のほか、急きょ、呼びもどされた文選工のベテラン職人さんが2人、控えていた。この時期、まだ印刷業界には、むかしながらの「活字」が残っていた。職人さんが、一文字ずつ活字を拾って、誌面を手作業で組み上げていくのである。

 つい数時間前に校了を終えたばかりの職人さんは、おそらく帰宅していたか、あるいは市ヶ谷あたりで気持ちよくイッパイやっていたかもしれない。それだけに、頭に鉢巻きを巻いて、明らかに不機嫌そうな顔つきだったという。

 松田デスクとヒコヤさん、進行担当Nさんたちが“活字部屋”にたどり着いたのは、ほぼ同時だった。壁一面ギッシリならんだ活字箱の横に、小さな部屋があり、机と椅子がある。緊急のときは、ここで原稿を書き、その場で職人さんに、活字を組み上げてもらうのである。

 このとき、ヒコヤさんは、両手に、日本酒の一升瓶と高級洋酒を抱えて入ってきた。

次ページ:「これでもう、精いっぱいだよな……」

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。