【衆院選】「大浴場付きホテルを」「炭水化物抜きで」 応援演説に来る大物議員の“細かすぎる要望”

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いざ選挙! でも事務所をどうする?

 永田町では、解散は突然であるほど「決断力」と称され、新党は急造であるほど期待を集めがちだ。

 年明け早々に風雲急を告げられた議員たち。永田町は閑古鳥で、選挙事務所や選挙カーの確保、電話、パソコ ン、什器などの手配、ポスター・ビラなどの作成、 スタッフ募集に選挙資金集め……と慌ただしく選挙戦に突入した候補者たちにも間もなく審判が下る。「働いて、働いて、働いて……」の状況を強いられているのは候補者のまわりだけではない。短期間で国政選挙の準備に追われる全国の地方自治体からは、「高市のパワハラ解散だ」との怨み節すら聞こえてくる。

 解散の予兆が見えると、自民党議員たちがやってきたことがある。自らの後援会のコアメンバーに連絡を入れるのと同時に、都道府県にある公明党本部にアポ入れをするのだ。選挙区内の公明票を自らに投票してもらうための集票活動の第一歩である。もちろん、自民候補者側は、見返りとして比例区での公明票を要求される。それらは表に出ないシャドウ・ワーク。公明党による自民党候補への推薦決定に至るには、連立政権という枠組みだけでなく、小選挙区内の公明票実数や地方選挙での支援など自民側からの過去の貢献度が考慮されたという。

「魂は売らない」との声も今は昔

 各小選挙区に1万~2万超はあるとも言われている公明票。

 宗教団体をバックにもつ公明側の言い分は「我々は一夜で票を動かすことができます」だ。その魔法の票に対して、自民候補者は目に見える形で「比例は公明」票を集めるべく様々な努力を強いられてきた。聖教新聞の購読に始まり、名簿の提出、日程の共有、各種会合での「比例は公明」との呼びかけは必須となる。

 26年前の自公政権発足から間もない時期の選挙では、自民党員である候補者や応援に入る地方議員側にも比例区に他党である公明票を頼むということに、かなりの抵抗があった。「これまで自民党としか書いたことがない」「魂は売らない」と躊躇する声が根強く、あくまでも水面下で公明票を集めていた。

 しかし、昨今の自民党候補たちは公示日当日から自らの立候補宣言と併せて「比例は公明党へ」と堂々と語るようになったし、選挙期間中の街頭演説、総裁遊説でさえも「比例は公明」とのポスターを持参した公明党陣営と“力を合わせて”選挙戦を戦っている様子が見受けられた。いつの選挙からか、自民党本部が用意した「比例は自民党」と記載されたポスターやビラの束は封を開けることもなく、選挙事務所の片隅に放置されるようになった。

 26年間にわたって魂を売り、“貢献”を積み重ねて得ていたはずの公明票が今回の解散・総選挙では新党「中道」に流れるという。序盤戦ではもっぱら高市人気による自民党優勢が見込まれるが、はたして公明票の行方は? その動き次第で最後まで結果はわからない。

『告発 裏金 自民党を壊した男たち』(桐山煌・著)には、選挙の時期を読み、一票でも多い票を獲得しようと奔走する政治家やスタッフの動きが細かく描写されている。普段知られることのない選挙陣営内部の様子は興味深い。

 自民党の選挙は、候補者だけで戦う個人戦ではない。派閥が音頭をとり、党内のさまざまな“リソース”を配分する団体戦でもあった。

《特に重要な業務は、派閥の中でも知名度のある議員を中心に、候補者の応援弁士としての選挙区入りを調整することであった。決起集会や個人演説会を開催する現地の要望や受け入れ態勢に合わせて効果的に派遣することが求められ、(中略)各選挙区の属性にあった弁士の派遣を心がける。同時に応援弁士側の要望も考慮しなければならない。過密日程を好む議員もいれば、その逆もいる。さらには、大浴場付きなど宿泊ホテルの好み、喫煙場所の確保や移動中に食べる弁当の中身にまで配慮することもある。議員によっては、食べ物の好き嫌いや「炭水化物抜き」など細かい要望を伝えてくる者もいるからだ。》

直前に決まった安倍元総理の奈良入り日程

 たとえば、参院選最中の2022年7月8日に奈良市近鉄大和西大寺駅前で銃弾に倒れた安倍晋三元総理。応援弁士としての奈良入りは直前に派閥内で決まった日程だった。『告発 裏金 自民党を壊した男たち』には次のように記されている。

《自民党本部ビルと道を挟んですぐの場所にある安倍派事務所は参議院選挙時、大勢の所属議員秘書らで賑わっていた。事務所内に派閥の選挙対策本部が設置され、候補者である安倍派現職や入会予定の新人候補を東京から後方支援するため、情勢分析、応援弁士や応援スタッフの派遣、投票依頼の電話掛けやハガキ記入などを連日行っていた。(中略)選挙戦も最終盤となる7月4日、自民党本部で各派閥の責任者が出席する選対会議が開かれ、安倍派では福井と奈良を最優先候補とする方針が打ち出された。それまで優位な戦いを進めているとされていた奈良の佐藤啓候補が、一部報道機関の世論調査で日本維新の会の候補者に5ポイント差まで追い上げられたなどとの情報が入ったためだ。》

 翌5日、安倍派事務総長の西村康稔が静岡県浜松市での遊説を終え帰京したその足で、安倍派選対本部入りした。奈良県選出の参議院議員・堀井巌も急遽召集され、秘書らとともに佐藤の選挙情勢の分析が行われた。それを踏まえた西村は、奈良への電話作戦開始を指示。

 この時点で安倍派所属議員の事務所は、既に重点候補とされた複数の候補者の選挙区向けに投票を呼びかける電話掛けを実施していたが、この日から佐藤候補分も追加し、支援を強めることとなった。

《「奈良選挙区は、さとうけいが、2期目の戦いに挑んでいます。大変厳しい戦い、どうぞ皆様の御支援をよろしくお願い申し上げます」

 安倍派の衆参議員会館事務所では、秘書たちが奈良の佐藤陣営から送られてきた名簿に沿って佐藤支援の電話を掛け続けた。

 そんな中、現職を猛追していると言われていた長野の新人候補の女性スキャンダルが週刊誌で報じられるとの情報が入った。

 8日午後には安倍が長野入りして当該候補の応援演説を行う予定だったが、安倍派参議院議員の会「清風会」会長の世耕弘成らは「女性問題が大々的に報じられる候補の応援にはいかない方がいい」と安倍に進言。安倍の遊説日程変更の指示が降り、かくして8日の安倍の奈良入りは急遽決まった。》

 裏金事件を機に麻生派以外の派閥は解散した。そのため、今回の総選挙では、こういった応援弁士の派遣など所属議員向けのきめ細かい選挙支援を党本部が一括して引き受けることとなる。しかし、ある本部職員は「派閥がやっていたようなことを党が担うことは到底無理だ」と語る。

 与野党の現職・新人あわせて総勢1000人以上が立候補する総選挙。「自民党公認とはいえ、立候補者それぞれの選挙区情勢や個別の事情を党が細部まで把握するのは無理。時間もない中、選挙用ルーティンをこなすだけで精一杯だ」

 選挙を仕切る鈴木幹事長さえも知らなかったという高市の奇襲解散に、党内には不満と不安がくすぶっている。

「政治とカネ」は「そんなこと」なのか

 自民党は今回の衆議院選挙でいわゆる裏金議員たちを他の所属議員と同等に公認し、比例重複候補も認めた。

 2025年11月11日の衆議院予算委員会で、裏金問題について「いつまで経ってもこの問題、けりがつかない。説明責任をしっかり果たす必要があると思います。また全容解明をしていく必要もあると思います。どう対応されるのか総理にお伺いをいたします」と質問した中野洋昌議員(公明党)に対し、高市総理は「私もこの問題が決着済みだとは決して思っておりません。政治とお金の問題には厳しい姿勢で臨んでまいります」と答えたが、その後、「政治とカネ」問題について「そんなことより」(2025年11月26日党首討論での高市総理発言)と発言。その後も全容解明がないままに裏金議員たちを公認する高市総理を国民はどのように評価するのか。

 折しも2月15日からの確定申告を控え、国民が正しい申告と納税を求められる時期となり、「政治とカネ」への関心は一段と高まっている。

 裏金問題は既にみそぎが済んだと開き直っているようだが、「政治とカネ」問題が今回の総選挙の大きな争点であることには変わりはない。

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