「おぢから大金をだまし取りつつ恨まれない方法」…中年男性を喰いモノにした「頂き女子りりちゃん」事件をビジネス的観点から読み直す

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『みんなを稼がせるマニュアル』

 事件が、世間を騒がせ、驚かせたポイントはふたつあった。

 ひとつは、りりちゃんが『みんなを稼がせるマニュアル』を作成し、ネットなどを通じて販売したことだ(売価3万円前後で1000部程度)。要するに、「おぢ」からおカネを巻き上げる手法を有料で伝授したわけだが、名古屋の女子大生が、このマニュアルをもとに詐欺を働いた事件がきっかけとなって、マニュアルの存在が警察に感知され、りりちゃんも詐欺幇助で逮捕された(23年8月)。

 特筆すべきは、女子大生が逮捕されるまで、りりちゃんは逮捕されることも告発されることもなかったことだろう。2023年春頃の時点ですでにマニュアルの存在は、ホストクラブ通いでお金に困窮している若い女性のあいだでは広く知られており、りりちゃん自身も、「不逮捕」「未告発」を自慢げに語って、マニュアルの有効性を強調していた。その時点で警察当局も注目していた可能性はあるが、名古屋の女子大生の一件が発覚するまで、りりちゃんは“無傷”だったのである。逆にいえば、その一件がなければ、あるいはマニュアルさえ作らなければ、りりちゃんはいまも自由の身だった可能性さえあった。りりちゃんの編みだした詐欺の手口(マニュアル)が、揉め事を回避するよう工夫されていたからである。

 事件のもうひとつの特徴は、りりちゃんのYouTubeやSNSでの発信のおかげで人気が高まり、逮捕後「りりちゃんを助けよう!」という支援の輪が広がったことである。親から虐待を受けて育ったという不幸な生い立ちやネット上で見せてきた「チャーミングで意外にも利発そうなトーク」も功を奏してか、熱心な支援者が次々に登場した。悪質なホストやホストクラブの「カネをむしり取るシステム」に憤慨した人たちが、並々ならぬ同情を寄せたという側面もあるだろう。

「頂いた」カネで“シャンパンタワー”を注文

 本人が発信したものも含め、ネット上の情報を整理すると、りりちゃんの経歴は、およそ次のようなものだ(基本的に自己申告ベースである)。

 生まれは1998年、家族は両親と一つ年上の姉の4人、神奈川県平塚市で育った。幼少時から、「ライターの火を押しつけられる」「包丁で脅される」などと父の虐待を受けていたというが、アトピーでも苦しみ、学校でも「ばい菌呼ばわり」などの虐めにあったらしい。

 だたし、本人は冷静にも、「父も家庭内で居場所がなかったから自分を虐待したのだ」と分析している。この人間分析力が彼女に「生き抜く力」を与えた反面、転落させた「負の力」になっているところにも注目したい。

 唯一の心の拠り所は母だったが、その母との関係が悪化したことをきっかけに(母親本人は「愛情を持って育てた」と否定)、18歳で家を出て横浜市の携帯ショップに勤めたことが社会とかかわるスタートラインになった。

 それでもなお居場所がないと感じたりりちゃんは、経済的な困窮もあって大宮の成人向け性サービスの店を経てさらに東京・吉原のそれに移った。本人によれば、彼女に恋心を抱いた客から望外のお金を得られたことをきっかけに、店や出会い系アプリで知り合った男性から、恋愛感情を利用して金銭を「頂く」(詐取する)ようになったという。詐取した多額のお金は、彼女の「承認欲求」を満たしてくれる唯一の場所だった歌舞伎町のホストクラブでほぼ全額使った。

 ここまでならそんなに珍しい話ではない。はっきりいって「よくある話」である。

 が、ひとたび「推し」のホストの常連客になると、承認欲求の水準は上がり、担当ホストをナンバーワンにしたいという欲が出てくる。こうなると深刻なホストクラブ依存症である。麻薬依存症、ギャンブル依存症とほとんど変わらない深刻な依存症である。常連客は、手持ちの現金がなくとも「付け」にできるから、50万円から100万円の高価な「シャンパンタワー」を注文するが、この付けは「売掛金」というかたちで、店に対する客の借金として累積していく。

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