「おぢから大金をだまし取りつつ恨まれない方法」…中年男性を喰いモノにした「頂き女子りりちゃん」事件をビジネス的観点から読み直す
戦後日本のさまざまな「揉め事」を振り返りつつ分析する「揉め事の研究」。今回取り上げるのは「頂き女子りりちゃん」事件である。批評家の篠原章氏は、犯罪の悪質性うんぬんを抜きにして、りりちゃんのマニュアルには文筆業の先輩として、ある意味“感心”せざるを得なかったという。
(全2回の第1回)
【写真】札束の写真も生々しい「りりちゃん」作成の“頂きマニュアル”の現物…数々の被害男性をトリコにしたプライベート動画も
りりちゃんの“担当ホスト”も逮捕
2023年から24年にかけて、各種メディアで大きな話題を呼んだ「揉め事」のひとつに、「頂き女子りりちゃん」の事件がある。
この事件は“頂き女子りりちゃん”を名乗る若い女性(1998年生まれ)が、甘言を弄して中高年男性(りりちゃん用語では「おぢ」)の心を操り、彼らから多額の金銭(裁判では3人の男性から総額1億5500万円と認定)を詐取し、それをホストクラブでの遊興に宛てたことで知られる一種のロマンス詐欺事件である。
2024年9月に下された名古屋高裁の判決は「懲役8年6月・罰金800万円」(一審判決は懲役9年・罰金800万円)。りりちゃん側は上告したが、2025年1月、最高裁に却下され、すでに刑は確定している。量刑には所得税法違反(脱税)の分も含まれ、推定納税額約7000万円という租税債務も残っている。また、りりちゃん担当のホストと、ホストが勤めるホストクラブの責任者も、組織犯罪処罰法違反容疑(ホストクラブぐるみで犯罪に加担したという容疑。一般的な詐欺罪より罪は重い)で逮捕・起訴されている。
頂き女子りりちゃん事件は大きな波紋を呼び、若い女性を餌食にするホストクラブの「闇」が広く知られるきっかけとなっただけではなく、ホストクラブやキャバクラでの「色恋営業禁止」規程の新設を含む風営法の改正案が国会で可決、成立した。
この事件は、当初、さまざまな視点から語ることのできる「揉め事」に思えた。たとえば、「頂かれた中高年VS頂き女子」、「ぼったくりホストクラブVSぼったくられ女子」、「巧妙な詐欺の手口VS警察」、「頂き女子VS(過去の)援交女子」といった切り口である。さらに、社会学的・心理学的なアプローチで扱い、「りりちゃんVS現代社会」という切り口で語る論調もあった。
ところが、その後の展開を見ているうちに、ことは「揉め事」とは言いにくい方向に動きだしてしまった。簡単にいえば、本来ならもっと揉めてもいいはずなのに、いつのまにか揉め事の当事者が消滅してしまったのだ。「当事者の消滅」は、りりちゃんの狙い所でもあったが、確信犯的に行動していた彼女自身が当事者性を失い、その結末は周囲をただ唖然とさせるものに変質したのである。以下では、「揉め事が揉め事でなくなった」経緯に、詳しく触れてみたい。
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