なぜ塾で「子どもの性被害」が頻発するのか…増加する“個別指導”の影響、“恋愛感情”がトラブルに発展することも

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子どもも教師も守る環境

 一方、働く側である講師たちにも深刻な問題は少なくない。

 なかでも問題になるのはやはり「カスハラ」だ。

「生徒ではなく親ですね。いわゆる『モンスターペアレント』です。教室長は20~40代の人が多い。学校の教員のように内申を左右する存在でもないうえ、親の世代よりも年が若いこともあってか、舐められるケースも少なくありません。なかには『自分の子どもが差別されている』と訴え、授業を見にくる親もいました」

 しかし、働き方改革が進む以前より環境は格別によくなったという。

「教室責任者からパワハラ、セクハラを受けたり、保護者からのクレームを受けたり、教室で起きたトラブルを解決したりしてくれる『危機管理センター』ができました。すごく企業としての仕組みがしっかりできていると感じます」

 また、こうした企業努力の取り組みの1つとして、表彰制度やコンテストを設けているところも。

「ある大きなイベントホールに全国の講師たちが集い、指導方法を実演して競い合うんです。この手法はずいぶん前にファストフードのマクドナルドが始めたものですが、レベルの高い講師の授業は非常に勉強になります」

90年代全盛期の「カリスマ予備校講師」

 最後にもう1つ、塾のなかでも大学受験に特化した「予備校」について少し触れておきたい。

 予備校も例に違わず少子化の波にのまれ、縮小傾向にある。かつては予備校最大手だった「代々木ゼミナール」も、2015年春に全国の校舎の約7割にあたる約20校舎を閉鎖。現在は6校にまで規模を縮小している。

 振り返ると、予備校の最盛期は間違いなく90年代だろう。当時は大きな塾がいくつかあったが、どの予備校にするかの最大の決め手は、「家からの距離」でもなく「費用」でもなく「講師個人の個性」だった。講師の話術や表情だけではない。中にはサングラスをしたり、派手なスーツを着たりと、いわゆる“タレント性”が求められた。

 筆者もかつて予備校に通っていた時代がある。日本史を取っていたのだが、あるカリスマ日本史講師がおり、広い教室をいつも満杯にしていた。きっと本稿読者にも受講生がいるに違いない。授業の冒頭に必ず「歴代天皇」を1代から順に高速で唱えさせられた。おかげで今でも履歴書の特技に「天皇が全部言える」と書けるほどスラスラいえる(その講師は2020年に逝去)。

 デジタル化や生活様式の多様化により、その責任がますます重大になる教育業界。少子化が続くなかで、その責任はどれほど果たせるだろうか――。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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