自衛隊「宇宙作戦隊」の理想と現実 ロシアや中国では「衛星を攻撃する兵器実験」も

国際

  • ブックマーク

日本の課題

 ロシアももちろん冷戦期から長年監視衛星を用いています。ロシアが得意とするのは、他国から警戒されないように何年間も監視衛星を休眠状態に置き、ただ軌道上を周回させておくという方法です。それがあるとき突如覚醒して敵の衛星に近づき、数カ月程度つきまとって航行を妨害したり、接近して撮影し、その性能を確認したりします。

 ロシアは、このような衛星からさらに小型衛星を放出して、自国の他の衛星に向けていざという場合の攻撃能力を試す実験動作も行っており、監視から攻撃までが一連の作業として組み込まれていると思われます。

 10年代以降、中国でも自国の衛星同士の結合や、標的衛星に対する各種の攻撃などの実験が多数報告されています。このような衛星破壊(ASAT)実験に用いられる衛星は、その前段階として敵国衛星を監視する機能を有している場合もあるでしょう。

 このように自国の衛星防護のための監視衛星と、他国の衛星に対するASAT兵器との間の区別が困難な場合も少なくありません。ただ、日本が現在製造中のSDA衛星は、継続的な監視に加えて、構想されているとしても、接近監視まででしょう。これまでのところ、SDA衛星の製造は順調に進んでおり、現時点では26年度の打上げ目標は達成されるといわれています。

 SDA衛星と並んで宇宙領域防衛指針の最優先事項である情報収集衛星コンステレーションについても、当然、国策として資源投入をしていくでしょう。しかし、何機体制のコンステレーションなのか、打ち上げ機は国産ロケットに限定されるのか、それで十分なのかなど今後検討する事項も少なくありません。

 機能保証のためには、即応打ち上げ用のロケットと射場を用意できるのかという点も課題です。日本には、小型中型衛星の即応打ち上げに適したロケットが現状存在しません。22年、24年に連続して失敗した中型衛星用のイプシロンロケットは再開のめどが立たず、人工衛星の軌道投入を果たした初の民間開発ロケットとなり得たかもしれないスペースワン社のカイロスロケットは、24年に初号機、2号機とも打ち上げに失敗しました。

宇宙先進国として自立へ

 とはいえ、日本だけが遅れているわけではありません。米ロ中以外の国は、衛星の重量や軌道に対応した打ち上げ手段を十分に保有してはいません。インドや欧州も同じ状況にあるのです。

 日本は、22年の危機(1年間に1回も打ち上げが成功しなかった)を脱し、再び打ち上げ能力で欧州やインドに負けないところまで持ち直しています。これまでも宇宙で劣勢に立つたび挽回し、底力を示してきました。

 現在、日本は初めて、民生・商用から安全保障までの能力を包括的に備えた、真の宇宙先進国として自立しようとしています。またとない好機といえるでしょう。

青木節子(あおきせつこ)
千葉工業大学特別教授。1959年生まれ。専門は国際法、宇宙法。1983年慶應義塾大学法学部卒業、1990年カナダ・マッギル大学法学部附属航空・宇宙法研究所博士課程修了(法学博士)。防衛大学校助教授、慶應義塾大学助教授・教授などを経て2025年4月より現職。内閣府宇宙政策委員会委員。著書に『中国が宇宙を支配する日―宇宙安保の現代史―』(新潮新書)など。

週刊新潮 2025年9月18日号掲載

特別読物「今や宇宙は新たな戦闘領域になった! 自衛隊『宇宙作戦隊』の理想と現実」より

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[6/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。