自衛隊「宇宙作戦隊」の理想と現実 ロシアや中国では「衛星を攻撃する兵器実験」も

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 ウクライナ戦争で衛星からの画像がピンポイント攻撃に活用されたように、今や宇宙は新たな「戦闘領域」になっている。防衛省は航空自衛隊に宇宙作戦隊を設けたが、宇宙覇権を争う米中ロの大国からは遅れている。その「理想と現実」を専門家が解説する。【青木節子/千葉工業大学特別教授】

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 今日の安全保障では、宇宙とサイバー空間は、陸海空に続く新たな「戦闘領域」になっています。

 日本では2020年5月、航空自衛隊府中基地を拠点として、宇宙作戦隊が創設されました。すでに米国では18年の国家宇宙戦略で、宇宙は「戦闘領域」となったと宣言。日本もこれにならい、第4次宇宙基本計画(20年)の前文で宇宙が「戦闘領域」と見なされる時代になったと記しました。

 そして、今年7月28日、防衛省・自衛隊が新たに宇宙利用に特化した「宇宙領域防衛指針」を公表しています。宇宙作戦隊の創設から、日本の宇宙活動はどこまで進んだのでしょうか。

 この指針は、過去数年の間に政府で決定された国家防衛戦略や宇宙安全保障構想に基づいています。さらに近年、加速度的な進化を見せる人工知能(AI)の可能性や、転換期を迎えた国際関係を考慮しつつ策定されました。そのため若干、専門的で難解な内容になっています。そこで、この機会に指針の内容を簡単に紹介しつつ、日本の宇宙能力の現在位置を考えてみることにします。

 この指針は、日本の防衛力強化のために、防衛省・自衛隊が行う宇宙利用の方向性を示したものです。自衛隊の任務遂行のために用いる宇宙システム(人工衛星、通信リンク、地上設備からなる)の利用と防護、加えて国民生活の基盤となる宇宙の民生利用の確保をどのように行うのかを記した文書になっています。

 まず、この指針が策定された背景から説明しておきます。

宇宙軍の新編は世界の趨勢

 世界の潮流は、陸・海・空の軍事作戦での指揮統制や情報収集の基盤がますます、通信、測位、偵察、早期警戒など、各種機能を備えた衛星網に依存する方向に進んでいます。

 その具体例として、ロシア・ウクライナ戦争では、全天候型のセンサーである合成開口レーダー(SAR)衛星画像が、カナダやフィンランドの企業からウクライナ軍に提供され、夜間のロシア軍の動きを伝えるなどして地上の戦闘に大いに貢献したことが広く報道されました。

 また、ここ数年、AIの進化によって、膨大なAI情報を駆使することになりました。衛星上で情報分析を瞬時に行い、陸・海・空の作戦現場に、ほぼリアルタイムで伝送する技術開発競争が過熱しています。

 この技術革新によって、軍事作戦の側面では、陸・海・空・宇宙のリアルな空間分類が無意味なものとなっています。軍事の最先端では、サイバー・電磁波領域も含めての領域横断的な戦い方を考えざるを得ない状況が生まれており、特に空と宇宙の一体化は待ったなしといえます。

 そのために、宇宙軍の新編やそれに相当する軍種改編は世界の趨勢となっています。遅ればせながら日本も、27年度までに航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊(仮称)」と改編することになったのです。

 ところで、宇宙空間の利用については、軍事だけに限られず、民生利用の確保も各国の重要な関心事になっています。なぜなら今日では、企業の宇宙開発利用の実力が、国家の宇宙能力を左右する場合も少なくないからです。

 宇宙は軍事的な目的に資するだけではありません。宇宙からもたらされる通信や画像、精確な位置・時刻などの情報は、国民生活の安全や利便性向上はもちろんのこと、新たなビジネスと富を生み出す源泉としても不可欠のものです。

 特に過去10年の宇宙ビジネスの発展はすさまじく、その極端な成功例が米国のイーロン・マスク氏率いるスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(SpaceX)社(以下スペースX社)です。

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